パートナーのえむさんが何気なく買ってきた『読者投稿心霊体験』を読んだら、高港基資先生の作品が抜群に怖いのでハマってしまい、『恐之本』シリーズを全巻集めることにした。
少年画報社から全部で10巻が出ており、紙の本は新品では手に入りにくいが、電子版なら気軽に入手して読むことができる。
この記事では、収録されている全作品のタイトルと共に、私が特に好きな作品を選んで、あらすじを紹介したい。
目次
1. 恐之本
- 先住者
- 閉ざされた窓
- 墜落
- 顔を見るな
- 泣く女
- ヨビト
- 指切りげんまん嘘ついたら……
- 安い車
- 二十年女
- 地域共通夢
- 駐在所
この中では『二十年女』が特に怖い。『読者投稿心霊体験』でも度々再録されている人気の話だ。
『二十年女』
和也には不可解な記憶があった。
幼い頃、髪を二つに結んだ若い女性が家の二階に住んでいて、よくいっしょに遊んでくれた。添い寝したり、彼をおぶって海岸に遊びに行ったり……。
しかし、大人になってから、母親に訊くと「うちは男衆ばかりで女はあたしだけじゃないか」と言う。
一体、彼女の正体は……?
家に住まう怪異の話。
清楚な女性の姿と、二十年越しに主人公に起こる惨事とのギャップが大きく、鮮烈な印象を残す。
2. 恐之本 弐
- ゆきをんな
- 痒み
- ミズ
- ウシロノショウメン
- 二人部屋病室
- 森を壊した男
- ウミヂ
- くさわら
- 声が聞こえる
- 悲しい音
前半、サイコな話が続いた後、唐突に来る『ウミヂ』という怪異の話がおもしろい。
『ウミヂ』
ある地方では”ウミヂ”と呼ばれる乳房状のものが、時折、浜に打ち上げられる。もしそれを見つけたら、急いで海に戻さねばならないと伝えられていた。
そんなこととは知らず、海岸の清掃のアルバイトに来た二人の青年が”ウミヂ”に出くわし、好奇心から夜の浜辺に近づいて、怪異と出遭う。
3. 恐之本 参
- 業火
- ひとだま
- 元カノ
- 顔を見るな〜その2〜
- ぶたにんげん
- 寝顔
- 長虫
- ポスト爺
- 嗤うカレシ
- ネグレクトーーある供述書からーー
『最期の夢』は2019年8月に放送されたNHK番組『声優×怪談』で、朗読された。
『元カノ』も怖いが、それ以上に、男性からのDV(ドメスティック・バイオレンス)を描いた『嗤うカレシ』が私は怖かった。
3巻は理不尽な暴力に見舞われる話が多い。
最後の『ネグレクト』も児童虐待の話で胸糞悪いのだが、高港先生の特徴として、子どもを描いた話は少しだけ、結末に救いがある描き方をしていることが多い。
子どもと老人には容赦するのが高港先生のスタイルだ。
4. 恐之本 四
- 棄人
- 地獄吊るし
- ランドセル
- コドモノイエ
- 公園のトイレ
- 黒玉
- 告げ口腫瘍
- ホスピタル
- 最期の夢
- 古い映像
『最期の夢』は2019年8月に放送されたNHK番組『声優×怪談』で、朗読された。老人が主役のちょっといい話だ。
私は4巻では、一見荒唐無稽なホラーのように見えて、現実にありそうな話『ホスピタル』が一番好きだ。
『ホスピタル』
いつから入院しているのか、記憶のはっきりしない「俺」は、病院での出来事に違和感を感じていた。
医師も看護師も様子がおかしいし、院内で出会う入院患者も不気味な人ばかりだ。
それには理由があった。
5. 恐之本 伍
- 千人針
- 狐狗狸さん
- 生まれ変わる日
- 捨てられていたもの
- 天井のおばあさん
- 荷物が届く
- 猫ヶ原
先祖の因果が子孫にめぐり、理不尽な怪異に襲われる『千人針』は胸糞悪い。
それと、5巻でダントツに怖いのは『生まれ変わる日』だ。
『生まれ変わる日』
島田は交通事故で両手両足を骨折し、身動きの取れない状態で入院した。
そこに現れた看護師は、かつて自分が行きずりでレイプした女性だった。看護師から執拗に虐待された島田は、なんとか逃げ出そうとするが……。
6. 恐之本 六つ
- 茸嫁
- あさみちゃん
- 誤差
- えだちまわり
- 絶対音感調律師
- おじいちゃんと一緒に
- 水底の音
- うるさい
- 安い家
- 警鐘
- パラサイター
なにかに寄生される話が多い。
それも怖いのだが、『恐之本』に収録されたサイコ話の中で最も怖いのが『絶対音感調律師』だ。
『絶対音感調律師』
萌利(もり)は万引きで捕まった罰として、両親の旅行中、一人で留守番することになった。
退屈しのぎに家でピアノを弾いていると、見知らぬ男が戸を叩き、「音がひどく狂っているから調律させて欲しい」と懇願した。萌利は男の勢いに恐れをなして断るのだが、男はあくる日も執拗に調律するよう迫ってきて……。
7. 恐之本 お七
- 白い人
- 体質
- 轢いた女
- 社に住まう者
- ナビゲーション
- バリ島綺譚
- 若返り
- しかえし
『轢いた女』は2019年8月に放送されたNHK番組『声優×怪談』で、朗読された。
ひき逃げの話は『恐之本』に何度も出てくるが、人を轢いて逃げなかったのは、この『轢いた女』だけだ。あとの人はみな、逃げた後で祟られて散々な目に遭っている。
ここに「因果応報」の強いメッセージ性を感じる。
8. 恐之本 八つ目
- 二階建人間
- 緋の衣
- 美少女
- 呪詛の道
- 或る日の母
- かげあそび
- アットホーム
- 試着室
- 消失
- タカオの部屋
- 昔見た幽霊
8巻の巻頭に収録された、6ページの描き下ろし作品『二階建人間』が好きだ。
高港先生の奇抜な発想には度々驚かされるが、『二階建人間』はその最たるものだ。この女のスカートの中身が一体どうなっているのか……ぜひ、ページをめくって確かめてほしい。
8巻は『美少女』も『読者投稿心霊体験』の再録で読んだ。
高港先生に女性を描かせると、その怖さ、天下一品だ。
『美少女』
30年前、「僕」は山奥にある全寮制の中学校に通っていた。寮の3階の端にある「僕」の部屋からだけ、林の向こうにある西洋屋敷が見えた。同室の皆が、屋敷に住む少女の姿を遠目に見ては”美少女”を想像して噂し合っていた。
ある日、ジャンケンで負けた「僕」は寮から抜け出して、”美少女”の姿を写真に撮ってくることになった。そこで、「僕」はとんでもない事実に気づいてしまう……。
9. 恐之本 仇
- 家族について
- 死人憑き
- はらから
- 身代わりの人形
- 地下駐車場
- お誕生日のおまじない
- ノツゴ
『死人憑き』
あるマンションで、仲のいい中年夫婦の妻が病死した。ところが、夫は妻の死を受け入れられず、マンション中に腐臭が立ち込めても放置していたという。
住民から通報を受けて警察官が駆け付けようとすると、車内に女の霊が現れて「くるな」と妨害された。そこで、上司に頼まれて僧侶の資格を持つ交通課の警官が一人で向かうことになったが、いざ到着し、夫と話をしようとすると異変が起きた。
この話の一番怖いシーンの演出が『黒異本』に収録の『ベビーカーの女たち』と酷似しているのだが、ちょっと変えているところが、またおもしろい。
高港先生は『恐之本』シリーズで斬新な演出をいろいろと試した結果、編み出した技を『異本』シリーズに投入している節がある。
10. 恐之本 充
- ファイナル・カウント・ダウン
- 蛹女
- 展望台
- 人柱
- 写真係
- 首巻き地蔵
- 首
- 恐怖の黒猫
- 曽々祖父
10巻は憑かれた話が多い。その中で印象的だったのが、『人柱』だ。
『人柱』
父と2人暮らしの典子は、史跡を訪ねる旅が趣味だ。ある時、2人で撮った記念写真で、父の後ろに見知らぬ女の姿が写っていた。
以来、典子は度々悪夢にうなされるようになった。しかも、夢でケガをした部分が現実に負傷しているので、全身アザだらけになってしまう。たまりかねて寺の住職に相談し、お札を受け取るが、異変は止まなかった……。
終わりに
24ページの短編が多く、短いのですぐに読める。
時々長めの話もあるが、大体どの巻も260ページ程度。同じぐらいの厚さになっており、どれを買っても損することはない。
読者投稿を元にしたと思われるシンプルな話もあれば、大胆に演出を加えて、読者を震えあがらせる派手な話もある。古典的な憑きもの話もあれば、人間の邪悪さを描いたサイコ話もあり、バリエーションが広い。
同じ題材(例えば「ひき逃げ」)を扱っても、展開が違うし、演出も異なるので、ワンパターンにならない。
1話完結式で、どこから読んでも差し支えないが、全部おもしろいので1話から順番に読むのがおすすめだ。
ちなみに、『LINEマンガ』において『恐之本』全94話を無料で読むことができる。
『LINEマンガ』では、1つの作品ごとに1日1話を無料で読める仕組みになっている。まずはためし読みしたいという人は、アプリを入れて、1話ずつ読むのもお勧めだ。