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映画『アルカディア』は後半の謎解きが楽しい、トリッキーなホラー【ネタバレ・考察】

映画『アルカディア』

えむさんが購読中の『ホラー通信』で見つけた映画『アルカディア』

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予告編を見て食指をそそられたが、上映日があまりに少なすぎた。

新宿シネマカリテが開催する映画祭『カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2018』の上映作品の一つで、どうやらここでしか上映されないらしい。

参加作品は期間限定でオンライン視聴できる。われわれも、なんとか期限内に滑り込みで鑑賞することができた。視聴のために会員登録し、1,500円を支払ったが、わざわざそこまでして観たかいのある良作だった。知られざる作品としてぜひ紹介したい。

映画『アルカディア』前半・あらすじ

10年前、カルト教団のキャンプ「アルカディア」から逃げ出したジャスティンとアーロンの兄弟は、清掃の仕事をして細々と暮らしていた。

ある日、2人の家に1本のビデオテープが届く。内容は、黄色いスカーフを巻いた女性が自殺をほのめかし、キャンプへ来るように誘う内容だった。弟・アーロンは里心がついてしまい、山奥のキャンプに戻りたいと言い出す。
兄のジャスティンは逃げ出すときに「教団は集団自殺を企んでいる」「人々はみな去勢されている」と告発した手前、気がすすまなかったが、弟に押し切られ、一泊だけの約束でキャンプを訪れることにした。
意外にも兄弟は歓迎され、人々からもっと滞在を伸ばすように勧められる。
ビデオテープをだれが送ってきたのかは、黄色いスカーフのアナに聞いてもわからなかった。
そして、キャンプ周辺では数々の超常現象が起きていた。

〜ここからネタバレ〜

前半は退屈。謎が解き明かされる後半にワクワク

110分の映画のうち、前半の50分は退屈だった。いくつもの謎が思わせぶりに示されるだけで、キャンプの暮らしは平和そのもの。「みな去勢される!」というのはジャスティンの嘘だったと中盤でわかる。

ところが後半、ジャスティンが弟と仲違いし一人で山を降りようとする段になって、次々に謎が明かされおもしろくなってくる。
これまでの伏線が結末に向かい一気に収束するのが気持ちいい。

結末・ネタバレ

この山は、《異形の神》が支配する特別な領域。人々は道に立つ柱によって境界を分けられ、狭い範囲に閉じ込められていた。彼らは神に虐殺されるたび、ゲームのように死がリセットされ、時間が戻るループを無限に繰り返していた。
教団の人々は《儀式》と称し、神に殺されることを受け入れていたが、それをよしとしない少数の人々は、キャンプの外にあるそれぞれの領域の中で自殺を繰り返していた。

ジャスティンはアーロンと分かれ、山を降りる途中道に迷ってしまい、カールという男が自宅で首を吊っている現場に出くわす。ところが死体の前にひょっこり同じ顔の男が現れ、腰を抜かした。
弟を連れ戻したいジャスティンに対し、カールは教団に戻る道を教える代わりに銃を取ってくるよう頼んだ。
ジャスティンはカールの指示に従い、銃を持つ男・クリス、マイクらと会って銃を手に入れる。やがてアーロンと合流し、「どうしても教団に戻りたい」というアーロンと共にキャンプに戻ると、人々の姿は消えており、異形の化け物に襲われた。2人は車を押してなんとかエンジンをかけると、命からがら境界を破って山の外に出るのだった。

考察

非常にトリッキーな作品だ。青山シアターでは24時間視聴できたので、一度観た後に何度も戻って伏線を確認しながら楽しんだ。自殺やカルト集団を扱っているためか全国上映されなかったのは残念だが、レンタル向きの作品と言える。

冒頭のエピグラフでラヴクラフトを引用することで《異形の神》の登場が暗示される。
《神》の悪戯によって、ビデオテープが兄弟の元に送られてくることになったのだろう。

よく考えると、アーロンがフィーチャーフォン(いわゆるガラケー)を使っているのに、同時代のものとしてビデオテープが登場するのはおかしい。
幼い日のジャスティンが母の碑に供えたクレヨンの絵もそうだ。野ざらしのまま10年以上経過したはずなのに、ちっとも古びていないから変だと思った。
これらは、キャンプのある山が《異界》に属し、時が止まっていることを示している。

全体を通じ、古いフィルム映画のようなざらついた映像で撮影されていることによって、怪しい雰囲気を醸しつつ、時代錯誤な部分を上手にカモフラージュしている。

ジャスティンは教団の人々が10年前と変わらぬ若さを保ち、年を取っていないと話していた。私はここで「もしや教団の人たちは幽霊なのでは……」と疑ったが、この映画は、想像の斜め上を行く超展開であった。死んでもリセットされて同じ時を無限にループするから、永遠に死なないし年も取らないのだ。
「アルカディア」とはギリシア神話に由来する「理想郷」の意味だ。不死の理想郷として、ブラックユーモアを込めて命名されたのだろう。ちなみに原題は『THE ENDLESS』「終わりがない」の意味だ。

冒頭の路上のシーンでもう一つ。ジャスティンが行く手の空を見上げると鳥の群れが円を描いて空を舞っている。反対の空を見ると、まるで鏡を見るようにそっくり同じような鳥たちの姿が。ジャスティンが再び視線を戻すと、さっきまでなだらかだったはずの稜線の向こうに、高い山が忽然と現れている。
この時点ですでに画面には《境界》を表す朽ちた柱が現れ、二人が《異界》に入り込もうとしていることを表している。
また、ラストシーンで再び麓の《境界》を抜ける際には、正面から突入する自分たちの車と入れ違いになる。ここで、また鏡面のように向こう側に映った景色を観客は目にする。これは《異界》では時間が無限ループしていることの証だろう。

私の感想:2018年に観たホラー映画のベスト1

《神》ははっきりと正体を見せなかったが、キャンプに住むアーティストの女性が絵に描いたシルエットだけで充分こわかった。あえて、私が知っているものに例えるなら『ガンバの大冒険』の宿敵・イタチの化け物ノロイだろうか。
途中、蛇やライオンに化身してみせたのは、おそらく「キマイラ」の暗示だろう。細部に至るまで設定が凝っていておもしろかった。

キマイラとは、ギリシア神話に登場する怪物。「牝山羊」を意味する。
英語ではキメラ、キメイラ。フランス語ではシメールという。
ライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つ。

兄弟の母親がなぜ死んだのかは明かされなかった。彼らの母は《境界》の手前で事故死したため、山の《神》に囚われずに済んだのだろうか?
ジャスティンがキャンプで出会った金髪の女性。「夫を探している」と言い、あちこちに「静かにして」と張り紙をしていたジェニファーには、母の面影が少しある。
ジェニファーの夫・マイクは山小屋に住む友人を訪ねたときにループに入り込んでしまい、妻には永遠に会えない運命だ。ジャスティンが「脱出できたら、何がしたい?」とたずねると、マイクが「妻と子どもに会いたい」と答えるシーンが切ない。

ジャスティンは弟思いで、どこまでも親身に弟に付き合ってやっている。この兄に対して弟は身勝手で幼稚な人物だ。天涯孤独ゆえにケンカしながらもつねに行動を共にする兄弟の親密さと、お互いのみを頼りにする心細さを作品の端々から感じた。
本当に怖いのは死ぬことではなく、家族と引き離されて一人にされることではないだろうか。後半で弟を探してジャスティンがさ迷う場面では、必死さがひしひしと伝わってきてスリリングだった。

久々に映画でここまで濃厚なホラーを味わって感激した。近年観たホラー映画の中で出色と言える。
監督のジャスティン・ベンソン、アーロン・ムーアヘッドはそのままの名前で主役の兄弟を演じ、息が合っていた。

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黒いジョヴァンナ
黒いジョヴァンナ
生来のホラーマニアで、学生時代には『新耳袋』『怖い本』『東京伝説』などを集め読破した。漫画好き、映画好きでもある。