『ネイティブ・サン~アメリカの息子~』は、2019年にアメリカのケーブルテレビ局 HBOで製作された。日本では劇場未公開の作品だ。
人種問題をテーマにした感動作を想定して何気なく観始めたら、途中からとんでもない鬱展開となりショックを受けることとなった。
胸糞映画は嫌いではないが、そうと知らずに観てしまうとダメージが大きい。
これから観る人は注意して欲しい。
目次
ストーリー【ネタバレあり】
アフリカ系アメリカ人の貧しい青年ビッガーは不動産王のダルトンに雇われ、住み込みの運転手として働くことになった。ダルトンを始め、ダルトン夫人、大学生の娘メアリーら一家はビッガーを温かく迎え入れた。
急進的なリベラル運動に傾倒するメアリーは、ビッガーの送迎でしばしば夜間の集会に参加した。
ある晩、ビッガーはメアリーとボーイフレンドをパーティーに送り届けると、二人にせがまれ、友人から入手した薬物を渡してしまう。メアリーは酩酊してボーイフレンドとケンカし、帰宅後に下着姿で庭を駆け回ってビッガーを慌てさせた。
ビッガーがなんとかメアリーを寝室に連れ戻すと、物音を聞きつけ、ダルトン夫人が部屋にやって来た。夫人がメアリーの有り様に気づくと面倒になると思い、ビッガーは必死になってメアリーの口を枕で押さえつけた。
目の不自由な夫人は気づかずに行ってしまったが、メアリーは窒息死した。
ビッガーは死体を地下の暖房炉に放り込み、知らん顔を通したが……。
私の感想
与えられたチャンスを生かせず、転落していく青年の運命が悲しい。
ビッガーは自ら積極的に悪事を行うわけではないが、周りに流されやすく、いくつかの判断をミスしたことが災いした。昔の仲間で、違法行為や薬物に関わる人物とは早めに手を切り、メアリーとも雇用者対使用人として適切な距離を置いておけば、あんなことにはならなかったのに……。
また、事故後も、故意の殺人ではなかったことを正直に話して、ダルトン夫妻に謝罪すれば、裁判で情状酌量された可能性は高い。
しかし、これはビッガー個人の資質云々ではなく、育ちや貧困にまつわる問題として捉えるべきだろう。貧困ゆえに充分な教育を受けられず、なにが正しいのか判断するための規範を持たない人もいる。ビッガーも教わる機会さえあれば、こうはならなかったかもしれない。
この映画は1940年に発表された小説『アメリカの息子』に基づいており、原作は1951年、1986年にも映画化されたそうだ。それが2019年に三度映画化されたことの闇は深い。結局、黒人をめぐる状況は今も大して変わっていないということではないか。
終わりに
映画『ネイティブ・サン~アメリカの息子~』は、Amazonの有料チャンネル『スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-』対象作品となっている。
2019年8月現在、7日間【無料体験】で視聴可能だ。