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映画『ミッドサマー』感想・考察

映画『ミッドサマー』感想・考察

『ミッドサマー』を観た。
大ヒットした『ヘレディタリー/継承』に続く、アリ・アスター監督の長編2作目。期待に違わぬ怪作だったと思う。

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この記事では、【ネタバレ】ありで感想を紹介したい。

目次

ストーリー

大学生のダニーは、精神疾患を抱える妹と連絡がつかず焦っていた。不安に陥るたび恋人・クリスチャンを頼るので、彼や彼の友人から鬱陶しがられていることも薄々承知している。妹は結局、両親を巻き込んでガス自殺していたことがわかり、ダニーは悲嘆に暮れた。

一方、クリスチャンはダニーと別れる方向に気持ちが傾きつつあった。しかし、ダニーの家族の死を知らされ、思いとどまる。そして2週間後仲間と行く予定だったスウェーデン旅行に、ダニーを誘ったのだった。

友人ペレの案内で、クリスチャン、ダニー、ジョシュ、マークらはペレの故郷・ホルガ村を訪れた。彼らが草原に設けられた大きなアーチをくぐると、白い民族衣装に身を包んだ村人たちが歌いながら出迎えた。彼らは歓迎され、90年に一度の特別な夏至祭(ミッドサマー)の宴に加わる。

村では子どもたちと招待客は一つ屋根の下に集められて寝起きする決まりだ。ペレによれば、18~36歳の村人は村の外に出て巡礼し、36~54歳は村に戻って労働し、54~72歳は年長者として敬われる。そして、72歳になった者は……。
ペレは首を切るジェスチャーをしてみせた。

その言葉通り、2日目の祝宴の後、男女2人の老人が儀式として崖から身を投げる。
招待客はあまりに凄惨な光景にショックを受け、中でも、ロンドンから来た男女2人は強く抗議し村を出ていくと宣言した。

招待客の中で唯一儀式を見ていなかったマークは、村人が大切にしている祖先の木に小便をかけ、人々の怒りを買う。その後マークは村の女性の誘いで連れ出され、二度と戻ってこなかった。

ジョシュとクリスチャンの二人は、村の名前や場所は明かさないという条件付きで、村の風習について論文を執筆する許可を得た。
ホルガ村では、生殖も管理されているらしい。村人たちは意図的に近親交配を行って生まれてきた障害者を《賢者》として崇め、聖典の儀式を行っていた。ジョシュは聖典に書かれた情報を盗みだそうとして、村人に捕まった……。

ロンドンから来たカップル、マーク、そしてジョシュの4人が消えた。

ダニーもまた崖の儀式を見て動揺し、一時は帰国しようとするが、ペレに優しく説得され、進んで祭りに参加するようになった。村の女性たちと共にミートパイを作り、白い民族衣装を着て、ダンスの列に加わった。娘たちが輪を作ってトランス状態で激しく踊る中で、ダニーは最後まで残り《メイ・クイーン》に選ばれる。

一方、クリスチャンは村の女性マヤに誘い出されて生殖の儀式に加わった。マヤとクリスチャンが女性たちに囲まれ、セックスするところをダニーはのぞき見てしまい、嘔吐する。

いよいよ儀式の最終段階。消えた4人の外国人の遺体と、自殺した2人の老人を象徴する人形が神殿に運び込まれる。この6体に、志願した村の若者2人と《メイ・クイーン》が選んだ1人を合わせ、9人を贄として捧げることになった。

全身を生花で飾られたダニーは、クリスチャンを最後の1人に選んだ。クリスチャンは薬で朦朧とした状態で熊の毛皮を着せられ、神殿の中央に安置された。村人がわらに火をつけると、木でできた神殿は盛大に炎上し崩れ落ちた。

感想・考察

結末は、意外にもハッピー・エンド!?

白夜の草原に人々が集まり、歌ったり踊ったりする景色は美しい。異国情緒あふれる宴にわれわれ観客も参加した気分になり、見聞きするもの全てが珍しく、楽しいのだが……。
私は愛聴しているラジオ番組『禍話』で聞いた『まつりのぞき』のエピソードを思い出していた。

そして、いつ招待客のせいで祭が失敗するのかと、ハラハラして成り行きを見守った。

ところが驚いたことに、全ては滞りなく進行した。ダニーが《メイ・クイーン》として選ばれ、奉られる結末までが最初から決まっていたかのようにスムーズに運び、祭は完成したのだ。
そう言えば、最初にペレが友人たちを村人に紹介したとき「君の人を見る目は確かだ」と称賛されていた。おそらく招待客のうち、誰を交配用の種馬にして、誰を贄にするかも最初から織り込み済みだったのだろう。
家族を亡くしうちひしがれたダニーが、少し揺さぶりをかければ、喜んでコミュニティに加わるであろうことも……。

人生ですべきこと、生殖のタイミングまでルールに縛られ、72歳になれば死を強いられるコミュニティの有り様は私にとっては悪夢だ。
しかし、村人たちは強烈な一体感のもと、幸福に暮らしている。
先祖を大切にし、定められた寿命が来れば喜んで死を受け入れる。自分の命が、次の命にバトンタッチされ生命が循環していくことを信じているからだ。

ダニーはこのまま村に留まった方が幸せだろう。家族が死んでも母国では誰も共に悲しんでくれなかったが、ホルガ村では女たちはダニーに連帯を示し、ペレも心からのお悔やみと親愛の情をダニーに示した。ダニーにとっては、きっと個人主義の国・アメリカより、全体主義の村・ホルガ村の方がずっと居心地良いに違いない。

ダニーにのみ注目すれば、凄惨な儀式をきっかけに家族の死を受け入れ、祭りに参加し、供物を捧げることによって集団に帰依する。結末はハッピーエンドだ。
これはホラー映画ではない、失恋の物語だと、監督も言っている。

ミートパイの中身は……?

一方でグロいシーン、スプラッタなシーンも多い。たぶん、村人たちは人肉も食っているのではないか……?
クリスチャンが食べたミートパイには、マヤのものとおぼしき赤毛の陰毛が入っていた。と同時に人肉も入っていたのではないだろうか。
殺された招待客のうち、鶏小屋に縛り付けられ背中を切り開かれた者や、手足がなくなり、布の袋に包まれた者もいた。彼らの肉はもしや、家畜の食糧となるか、祭りで出されるミートパイの材料になったのではないか……。

私としては、村に到着して最初に檻の中に熊を見つけたとき「もしや、ダニーは最後に《メイ・クイーン》に選ばれ、熊に食われて供物となるのでは……」と最悪の想像をしていた。そんな結末にならなくて良かった……と、喜んでしまった自分が恐ろしい。

頼りにならない男など、いらない

クリスチャンが、好きでもないマヤとセックスするのをためらいつつ、最終的には場の空気に流されて受け入れる場面では「アンタはどうせ、そういう男だよ……」と呆れて観た。
この男、とにかく頼りにならない。どうして、こんな男をとことん頼ろうとするのか、ダニーの愚かさが悲しい。
交配の儀式が終わって、クリスチャンが裸で飛び出してくるシーンでは、モザイクをかけられ、股間を隠しながら走り回っている姿が間抜けで笑った。その後、彼は生きながらにして焼かれるひどい目に逢うのだが、ダニーに共感してしまい、ざまあみろとしか思えなかった。

最もグロテスクなシーン【閲覧注意】

この映画で最もグロテスクなのは、序盤の、崖のシーンだろう。
自殺する2人の老人のうち、『ベニスに死す』の美少年で知られるビョルン・アンドレセンの方がクローズアップされがちだが、老婆の方もなかなかにグロかった。
崖の下にわざとテーブル状の平らな石を2つ配置してあって、そこに1人ずつ「ドン」と落ちてくるのだ。ああいうふうに落ちたら、普通は一撃で脳をやられて生命活動を停止するはず。反動で頭が起き上がってくるかのような演出は、不自然で悪趣味だ。

アンドレセン演じる老爺の方は、長身のためだろうか、少し石を外れて落ちてしまい、変なふうに骨折して足が砕けている様が惨たらしい。いずれにしても、あの高さから落ちれば、普通は地面と衝突する衝撃で脳をやられるだろう。脳とは、ボウルの中に水を張って豆腐を入れたようなものだとよく例えられる。解剖学的に考えれば、あのシチュエーションで死に切れない演出はおかしいのではないか。
死に切れない老人に、若い世代の村人たちが手を貸してやり、手を下すシーンは劇的だが、そこまでする必要あったかな……。父母に手をかけた妹の死に様の暗喩なんだろうけど、あれはひどかった。

北欧神話にまつわるあれこれ

ネット上には、クリスチャンに熊の毛皮を着させたのは巨人ユミルを倒したオーディンの暗喩だとか、北欧神話をめぐる考察記事がいろいろあって、それぞれおもしろかった。
私の感想としては「スウェーデンの人、この映画を観て、怒らなかったのかな……」とか、「巨人ユミルって、『進撃の巨人』の中の話だけじゃなかったのか!」などの発見があった。

とにかく、観た人に強烈な印象を残し、あれこれと語りたくなる映画には違いない。ただし、精神的に問題を抱える人には決してお勧めできない。悪趣味な名作というのが私の結論だ。

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黒いジョヴァンナ
生来のホラーマニアで、学生時代には『新耳袋』『怖い本』『東京伝説』などを集め読破した。漫画好き、映画好きでもある。