映画『ミッドサマー』は衝撃だった。
私は公開から5日後に観に行き、パンフレットを買おうとしたが、すでに売り切れていた。渋谷、新宿、池袋、吉祥寺もアウト。
郊外の映画館に電話して聞いたら「まだあと数冊在庫がある」というので、電車で買いに走った。約1か月前の話だ。
その後、東京都には緊急事態宣言が発せられ、都内の映画館はどこも閉鎖されてしまった。まさか、こんなことになるとは……。
2020年4月現在、公式通販の情報がないため、この記事では、入手できなかった人のために内容を紹介したい。
目次
パンフレットのデザインとデザイナー紹介
映画『ミッドサマー』のパンフレットはA5サイズで、普通より小さめの作りだ。
表紙は厚口の紙を内側に折り込み、簡易的なジャケットとして中身を保護している。小口はランダムにカットされ、ボロボロになった古文書の雰囲気を醸しているのが特徴だ。
デザインは大島依提亜氏。映画のグラフィックを中心に活躍するデザイナーで、日本オリジナル版のポスター2種類も手掛けている。
一つは特色の金色で鈍く光る、モノクロの写真を使用したポスター。もう一つは、大人気のイラストレーター・ヒグチヨウコ氏によるイラストを全面に使用したもので、このポスターが巻末に収録されていることもパンフレットが売り切れとなった要因の一つだろう。
裏表紙は、四辺にブルーで額縁状の装飾がされ、中央に古代ルーン文字が9文字並んでいる。
この文字を見るなり「大規模な生贄のルーンだよね?」と見破るオタクがあらわれ、Twitter上で話題となった。
答え合わせは、『ミッドサマー』公式サイトの『観た人限定・解析ページ』の中にある。ちなみにこの9文字は、崖の儀式で老女がすがっていた石板に彫られていたのと同じ9文字だ。
内容紹介
まず、ジャケットの内側には、極彩色のタペストリーが印刷されている。
このタペストリーは映画の冒頭に登場したもので、左半分が冬、右半分に夏(夏至祭)を描いており、これから主人公・ダニーの身に起こる出来事を暗示している。台湾出身のアーティスト、ム・パンによる作品だ。
冒頭の9ページは、ホルガ村の祝祭から平和なシーンが切り取られ、嵌めこまれている。
本文内容……イントロダクション、あらすじ、キャスト紹介、製作者紹介、アリ・アスター監督のインタビュー(4ページ)、解説、町山智宏による解説、小林真里による完全解析(4ページ)
末尾には日本オリジナル版のポスターが2パターン収録され、奥付となっている。
ここに掲載されたアリ・アスター監督のインタビューは、他のメディアに掲載されたものと大筋ではいっしょだ。
また、小林真里による完全解析は、映画公式の『観た人限定・完全解析』とほとんど同じ内容である。
公式ページではネタバレ防止のために「見る」と入力させるようになっているが、無料で見られるので、パンフレットを入手できなかった人はこちらを見るのがおすすめだ。
映画『ミッドサマー』公式サイト
感想
装丁が美しく、ビジュアルも充実したパンフレットなので、また再販されるようになれば、コレクターズ・アイテムとして欲しい人にはお勧めだ。
定価は900円。メルカリなどでは現在も高値で転売されており、こうしたところで購入するのはお勧めできない。
町山氏の解説によれば、アリ・アスター監督は自分自身の家族に起こった事実を元にして、自らのトラウマを癒すための《おとぎ話》を作ったという。
例えば、『ヘレディタリー/継承』では、長男が事故で妹を死なせてしまったことをきっかけとして家族が崩壊する。『ミッドサマー』では、精神疾患を抱える妹が両親を巻き込み、一家心中するところから物語が始まった。
アリ・アスターの身にどのような悲劇が起きたのかは明かされていないが、彼が家族のトラウマを抱え、心を癒すためにさまざまな手段を試していることは理解できる。だからこそ、彼の作品はつらい話であっても、多くの人の心にカタルシスをもたらすのだろう。
アリ・アスター短編解説読本「”I HOPE THAT PEOPLE WILL FEEL UNSETTLED.”」
2020年3月、自主団体『映画パンフは宇宙だ』の企画によるアリ・アスター監督作品の解説本が発売された。
アリ・アスター監督は長編映画『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』の2作の他に、短編映画を7作(+1作)を制作し、後者はいずれもYouTubeで無料公開されている。
- ジョンソン家の奇妙なこと(2011)
- TDFはチョー便利(2011)
- ボー(2011)
- ミュンヒハウゼン(2013)
- 無題(2012)
- 亀の頭(2014)
- 要するに(2014)
- セ・ラ・ヴィ(2016)
これらのシナリオを書き起こし、対訳とコラムをつけて小冊子にしたのがこの『”I HOPE THAT PEOPLE WILL FEEL UNSETTLED.”』だ。
タイトルはアリ・アスター監督の言葉で、「みんなが不安になってくれるといいな」と訳されている。
表紙絵・扉挿画はフリーデザイナーのジンボウサトシ氏が手掛け、全体のブックデザインも自主制作と思えないぐらいカッコよくデザインされている。
部数は限られているが、サイトを見る限り、まだ購入できるようだ。
自由に劇場鑑賞もできなくなってしまった今、この小冊子を手引きとして、YouTubeでアリ・アスター作品を楽しむのもいいかもしれない。