松原タニシ・著の『恐い間取り』が亀梨和也主演で映画化されると知って、楽しみにしていた。
意外なキャスティングだが、想像以上にはまっている……。
2020年8月28日公開初日に早速鑑賞した。この記事ではネタバレありで、感想を紹介する。
目次
ストーリー
舞台は大阪。
売れないお笑い芸人の山野ヤマメ(亀梨和也)は、相方の中井(瀬戸康史)から一方的にコンビ解消を告げられた。
解散後、裏方に転職した中井の発案により、ヤマメは「事故物件住みます芸人」を売りにするようになる。自らカメラを回して心霊現象を映像におさめれば、関西ローカルのテレビ番組でコーナーを持たせてもらえるというのだ。
その頃、コンビ時代から唯一のファンであったメイクアシスタントの梓(奈緒)が、急接近していた。梓には霊感があり、事故物件を訪れると過去にその場所でどんな事件が起きたのか霊視できるのだ。
梓の協力によって企画は盛り上がり、ヤマメは人気者になった。
そんなヤマメに、いつしか不吉な黒い影がつきまとい始めた……。
この先、後半のストーリーと考察・解説ではネタバレ全開となる。
ネタバレを知りたくない人は、観賞後に読むことをおすすめする。
後半のストーリー・ネタバレあり
- 殺人事件が起きた物件(男が女性を殺す)・大阪
- 殺人事件が起きた部屋(息子が老いた母親を殺す)・大阪
- 首吊りがあった部屋・大阪
- 心中事件があった部屋・千葉
以上が、不動産仲介業者・横水(江口のりこ)の紹介でヤマメが住んだ事故物件だ。
途中まで中井も同居し企画に協力していたが、実家の両親に不幸が続き、田舎へ帰ってしまった。
一方、ヤマメは人気が出て、いよいよ全国放送でレギュラーコーナーを持たせてもらえることになった。
上京に先立ち、梓に間取り図を見せると「この部屋だけはやめて!」と強く止められた。しかし、ヤマメは反対を押し切り、その部屋に住むことに。
やがて、部屋からの動画ライブ配信中に怪異が起こる。
心霊現象に引き続き、ヤマメは不気味な黒い影に襲われた。
絶体絶命の時、大阪から梓と中井が駆けつけ、助けてくれた。
後日。ヤマメと梓は同棲することになり、「恐くない部屋」を求めて、なじみの不動産仲介業者を訪れた。
そこに再び黒い影が現れ、誘い出された横水がふらふらと表に出て行き車にはねられた。
感想
前半では、梓の好意につけ込んでナチュラルに利用しようとするヤマメのサイコパスぶりに引いた。
怖がる梓を何度も事故物件に連れて行き、霊視させようとしたり、梓が霊に襲われて洗面所で溺れそうになった後もその部屋で過ごすなど……。普通では考えられない鈍感さだ。
後半なんとか自分一人で対処しようとするが、危機になるたび、結局は梓や中井が訪ねてきて助け出してくれる。
どこまでも人任せにして流されるばかりの無能なキャラである。
亀梨君がグシャグシャのパーマヘアでもっさり感を出そうとしているところが良かった。体型は以前と比べ、明らかに太っていて、おしゃれ感のある個性的な衣装がすごくタニシ氏っぽい……。
むだにシャワーシーンがあり、ぽっちゃりした上半身を観客に魅せつけた。
重要な場面ではメガネを外し、大きな目をパッチリ見開いてキメ顔を見せてくれる。亀梨君のファンにとっても十分楽しめる作品だったのではないだろうか。
私は事故物件ホラーにラブストーリーの要素は要らないと思ったが……これがあることによって、数々の胸キュンシーンが生まれた。
齢30を超えて、鈍いフリしたってダメよ……!
あざとい。
自分の美しさをわかっていて、しっかりキメ顔を見せるのがジャニーズの様式美って感じだ。(でも、嫌いじゃない。)
不動産仲介業者の役で江口のりこが怪演していた。
オレンジ色のど派手な衣装が顔色を悪く見せ、能面のようなメイクを不気味に引き立てている。ぬらーりとした演技が役にぴったりで実に良かった!
ホラーとしてはショッキングなシーンもそこそこあったし、原作で読んで雑に想像していた間取りが映像化されると意外性があり、楽しめた。
事故物件の由来に関しては、フィクションを交えてよりドラマチックな見せ方をしている。例えば殺人のシーンなど、実際の事故物件とは少し設定を変えて脚色しているために、素直にフィクションとして受け取り、味わうことができた。
これを実際の設定のまま再現ドラマ化してしまうと、不謹慎に感じるし、シリアスになってしまい、娯楽として楽しめなかったと思う。
原作『恐い間取り』というより、原案を生かして大胆にストーリーを作り上げ、フィクションに仕立てた感じだ。
私は『犬鳴村』を観て、最近の邦画ホラーの流行はこんな感じかーと理解していたので、納得の仕上がりだった。
原作との違い
1軒目
原作では、1階がぶち抜きで広い駐車場になっている奇妙なマンションだ。警察の調査で違法建築がわかり、8〜10階までが閉鎖された。(2巻の記述によれば、違法に水増しした居住スペースを減らすためにこのような処置がされたらしい。)
4階で殺人事件があり、犯人は犯行後に放火までしている。重大事件として扱われ、犯人はすでに死刑が執行されたそうだ。
タニシ氏が住んだのは6階のワンルームで、事件が起きたのとは別の階だ。マンションの全部屋が事故物件扱いされ、家賃が安くなっていたという。
映画では男性が女性を襲い、ベランダで殺すシーンがあった。
モデルになったマンションでは、実際にベランダにしがみつく女性の姿を見た人がいたという。
部屋で撮影したビデオに帯状の光が映り込んだり、タニシ氏や後輩芸人が同時期に別々の場所で交通事故に遭った件も、それぞれ、映画のエピソードとして取り入れられている。
映画では1階は普通の住居部分になっていたが、「4階で事件があったはずなのに6階が立ち入り禁止になっている」新設定が付与されていた。
2軒目
2DKで和室がある。ここの間取りは大体原作の通りだ。
畳をめくると血痕が残されていたり、浴室の鏡が使えないようにされているのも原作と同じ。
洗面所の水はけが悪く、排水口から人毛が出てきたり、ゴボゴボとまるで水中で話しているかのような留守番電話が録音されていたり。近所の食堂で食事していたら、お店の大将に事故物件の由来を知らされるところまで、原作に忠実に作られている。
息子がDVで母親を殴り、その後殺したとされる経緯もほぼ同じだった。
ただし、後日談は原作の方が怖い。
犯人は精神鑑定で不起訴になった後、別の通り魔事件を起こして逮捕されたという。タニシ氏が部屋にいるとき、ドアノブがガチャガチャされたり、時々郵便物がなくなっていたのはこの人物のしわざだったのではないかと書かれていた。(この件について、2巻に新情報あり。)
3軒目
ロフト付きの1K。前の住人の女性が首吊りで亡くなっている。
ロフト部分の梯子に不審な凹みの痕があり、《事故物件サイト》で調べると前の前の住人がロフトで首を吊って亡くなっていたという。
この部屋で暮らしていると、猛烈な頭痛に襲われるのも原作の通りだ。
つまり、この部屋についても、原作にほぼ忠実にできている。
原作にはロフト部分の写真が掲載されていた。映画ではこぎれいだが狭苦しい部屋の様子が映し出されて、臨場感があった。
4軒目
千葉県でタニシ氏が借りた部屋は1Kだ。
一方、映画版では間取りが変更されている。他にもいくつか部屋があり、中心部分には柱があって、そこにヤマメがすがりついて叫ぶシーンがあった。
物件の案内には「北稲毛からすぐ」と書かれていたが「北稲毛」という駅は存在しない。上京したヤマメが上野駅でスーツケースを引っぱっていた描写からすると、高速バスを利用し、上野で乗り換えたのだろうか。(新幹線を利用したとすれば、このような乗り継ぎはおかしい。)京成稲毛駅あたりをモデルにしたものと思われる。
誰も通っていないのに向かいの家の防犯センサーが鳴るエピソードは原作の記述通り。
事故物件の由来になった心中事件については、映画オリジナルのエピソードだ。原作では全く異なり、薬物の過剰摂取による事故死と書かれていた。
映画版オリジナルのエピソード
映画のクライマックスでは、心中により亡くなったとされる男女をはじめ、多数の霊が一斉に現れ、ヤマメに襲いかかってくるシーンに度肝を抜かれた。
駆けつけた中井が「まじない」のようなことをして大立ち回りを演じるのは、映画『来る』みたいでおもしろかった。
『来る』には実際の神職が参加し、正式なおはらいの所作が取り入れられていたと聞く。一方、『恐い間取り』のまじないは束になった線香を使用し、密教の護摩なのかなんなのか……謎だ。
修行もしていない一般人がやったところで、効果あるんだろうかと一抹の不安を感じた。
映画で、黒いフードをかぶった謎の人物は「死神」を表現したのだろう。
江戸川乱歩の『青銅の魔人』を思わせる、金属的な不気味な輝きをまとっている。ユニークな表現だ。
現実には、もちろんこのようなエピソードはないが、気がかりなのは1巻の終わりの方に掲載された『黒い人』という話だ。
2016年にイベントでお客さんといっしょに撮った写真で、タニシ氏の顔だけが塗りつぶしたように黒く写っていた。(本には実際の写真が掲載されている。)この写真をラジオ番組で共演したある住職に見せたところ、「このままでは死ぬよりつらい目に逢いますよ」と警告されたそうだ。
このエピソードを改変し、映画化したのが前述の「死神」の表現だろう。
終わりに
こうして見ると、映画のシナリオはすごくよくできている。映画を観た後、1巻を読み返してなるほど〜と思った。
フィクションとして楽しみたい人には映画がおすすめだ。
原作では、あまりタニシ氏の感情表現を入れず、淡々と事実や伝聞を述べ、写真や事故物件の間取りを紹介した「実話っぽさ」が怖い。
1つの物件についてよくこれだけのエピソードを集めたなと感心するぐらい多くの怪談が語られており、厚みがある。
「事故物件住みます芸人」を掲げるだけあって、独自性がある作品だと思う。
2020年8月に発売された新刊『恐い間取り2』もどんな内容なのか気になり読んでみた。
2巻では新たに住んだ5軒の事故物件を紹介すると共に、1巻に掲載した5軒について追加のエピソードを収録している。
2冊目で先細りにならずにちゃんと厚みのある怪談を集めているところがすごい。
ちなみに映画に登場するシャワー中のエピソードは2巻に書かれている。
Amazonの『チャンネル恐怖』にあるタニシ氏の動画は怖くて、私はとても観られなかった……。
活字の方が、想像しながらマイペースで読めるのでよい。
マンガ版はいくつか出ているうち、おがたもえ先生の『お部屋いって視るんです!』のシリーズが、ギャグを交えてマイルドな怖さで読め、気に入っている。
事故物件芸人の今後に注目し、新作を楽しみに待っている。