映画

殺人のループにはまり込む映画『残酷で異常』は2度観る価値がある

残酷で異常

気になっていた映画『残酷で異常』がAmazonプライムビデオ入りしたのをきっかけに視聴した。
2014年制作のカナダ映画で、上映時間は95分。(原題:Cruel & Unusual)

妻を殺した男が、永遠に殺しの場面を繰り返すタイムループに入ってしまう。男は残酷な時間のループから逃れることができるのだろうか?

ストーリー

中年男エドガーは、自宅の床で妻に心臓マッサージを施し蘇生させようと必死だった。しかし妻は息を吹き返すことなく、エドガーは力尽き床に倒れる。

気がつくと、妻メイロンは助手席に座り、エドガーの横暴に対して怒っていた。

エドガーは驚いてブレーキを踏んだ。自分は悪い夢を見ていたのか……?
傍らの野原に2本の大木があった。その木を見るなり、エドガーは引き寄せられて木にすがりついた。

ポケットで電話が鳴った。義理の息子・ゴーガンが級友にケガをさせ、いなくなったらしい。メイロンは息子を心配し取り乱したが、エドガーは気にもとめなかった。

(この後のやり取りでメイロンは経済的安定を目的にエドガーと結婚し、夫婦仲は冷えていることが明らかになる。エドガーは妻を愛しているが、妻の連れ子であるゴーガンとは折り合いが悪く、決定的に仲違いをしてしまう。)

夕食後エドガーは気分が悪くなった。救急車を呼ぶようメイロンに頼んだところ、どうも妻の様子がおかしい。もしや、彼女が夕食に毒を入れたのでは?

エドガーは妻に襲いかかり、受話器を奪おうとして妻の首を絞め、窒息させてしまった。その後、自分も毒により死んでしまったらしい……。

・・・

殺人者たちは死後集められ、グループセッションへの参加を強制されていた。新たにエドガーがこの席に加わった。
彼らは逃れようとしても同じ部屋に引き戻され、セッションの後は各々扉を開けて過去の時間に戻っていく決まりだ。そして罰として殺人の場面とグループセッションを延々と繰り返させられる。
この場所で1972年からずっとループを繰り返していると話す女性さえいた。

エドガーにしてみれば、故意に妻を殺したつもりはなかった。揉み合っているうちにそうなってしまったのだ。エドガーは打ちひしがれ、なんとか次は妻を殺すまいと強制ループに抗おうとするのだが……。

この先、後半のストーリーと考察・解説ではネタバレ全開となる。
ネタバレを知りたくない人は、視聴後に読むことをおすすめする。

結末ネタバレ

殺人者ばかりのグループセッションで、唯一、自分を殺した罪で囚われていた女性・ドリスは皆から仲間外れにされていた。
「なぜ奥さんはあなたを殺そうとしたの?」
ドリスの問いをきっかけにエドガーは自分の罪を自覚し、過去を変えようとする。

エドガーはセッションから逃げ出しドリスと共に過去に戻るが、妻を殺さなければ自分が先に妻に毒殺され、今度はメイロンを殺人者として地獄に送るだけだと気づく。

そのとき、エドガーの庭が1972年のドリスの庭とつながる。そこでは、過去のドリスが木に縄を掛けようとしていた。エドガーは身勝手な愛で妻を苦しめたことを悔い、ドリスの代わりに木で首を吊った。

このようにして自殺したエドガーはグループセッションに戻り、皆から仲間外れにされる立場となった。

ドリスは生きて、愛する家族と共に年老いていった。

エドガーが死んで一年が経っていた。
ドリスの庭にメイロンとゴーガン親子が現れる。
「なぜ夫がここで首を吊ったのか、わからないんです……」

メイロンは悲しげだが、夫の束縛から解放され今は幸せに暮らしているようだ。ドリスだけが、なぜエドガーがここで死んだのか真の理由を知っていた。

考察・解説

グループセッションの目的

「死」をきっかけにタイムループに入り込む設定は1987年の『リプレイ』を始めとして、今や多くの作品で見られるが、殺人者の死後にグループセッションをさせる設定は奇抜だ。

セッションの目的は彼らに罪を自覚させ、永遠に苦しめること。

エドガーと同じグループになった者たちは、もはや逃れらないというあきらめの中で殺人のループを繰り返していた。(彼らが老いた姿でないのは、殺人の後、すぐに射殺されたり自分も事故死したためだろう。)

一方、自殺後のエドガーはグループセッションでイスに足を乗せ、尊大な態度を取っている。「自分は殺人者ではない、殺人者といっしょにするな」という特権意識からこうなったのだ。初めて会ったときのドリスが同様の態度を取り、他の者から距離を置いていたわけが、ここで伏線としてつながる。
自殺者が仲間外れにされる理由は、こうした態度が鼻につくためだ。
エドガーの場合、自ら納得して妻のために死を選んでおり、誇らしげな顔をしている。

大きな木の伏線

一方、ドリスはエドガーのおかげで人生をやり直すチャンスを手にし、ハッピーエンドとなった。

それだけで物語が終わらず、老女となったドリスがメイロンたちと同時代に再登場する点に最大の驚きがある。このとき、ドリスは70歳前後。
腕に自殺者をあらわす《EGO》の文字が残されていることから、ドリスがグループセッションでエドガーと出会った記憶を有していることは明らかである。
「重すぎたとしても、いつまでも君を愛し続ける」
エドガーの遺言が、さりげない形でドリスからメイロンへと伝えられた。

冒頭、車を停めたエドガーが「あの木……」と言って木に引き寄せられるシーン。ここが見事な伏線となっている。
つまり、ドリスの庭は初めからエドガーの家の近所だったのだ。
1度観た後、最初から観てみると、冒頭部分にこれから先の運命をほのめかす伏線(空の食器、家族の写真、棚の上の不凍液など)がカットとして登場していることに気づく。

巧みな構成で、二度見る価値のある映画

この記事の前半にストーリーを時系列に沿ってある程度整理した上で記したが、これらの事実は、エドガーが何度もループして殺人とグループセッションを繰り返すうちに小出しにわかっていくことだ。

初めてセッションに来た時点では、エドガーは混乱して記憶を失くしている。そのため、われわれ観客はミステリーの感覚でエドガーと共に謎を解いていくことになる。

特に、グループセッションの目的や部屋どうしのつながりがわかるまでは不可解な点が多い。二度観ることによって登場人物の発言の意図や、エドガーの気持ちの移り変わりをはっきり感じとることができ、おもしろかった。

タイトル『残酷で異常』の意味

原題は”Cruel & Unusual”
『残酷で異常』という日本語訳そのままのタイトルだ。

この意味は、殺人という行為の残酷さ・異常性を強調し、殺人者には死後このような地獄が待っているのだと脅かしているのだろう。
グループディスカッションの部屋でテレビに映っている女性がつねに高圧的で不快な態度を取るのは、殺人者に対する懲罰の意味である。

ちなみに、エドガーの腕には「妻」を表す《UXOR》の文字が、またドリスの腕には「自分」を表す《EGO》の文字が刻まれている。これはラテン語でそれぞれ殺しの相手を刻んだもので、女性は「残虐さを伝える刻印」だと明言していた。
自殺者をも罰するのは、自殺を罪とするキリスト教的宗教観に基づくものだろう。

メイロンたち親子の出自

メイロンは浅黒い肌でアジア系の顔立ちをしている。
夜間学校で英語を教えるエドガーの生徒だった縁で結婚したらしい。

エドガーが継子・ゴーガンと口論するシーンに、出自についてヒントが示されていた。
怒ったエドガーが「叔父さんのいるミンドロ島に送るぞ」と脅す。ミンドロ島とはフィリピンの中央北部に位置する島だ。

メイロンが「メヌード」を得意料理としている点からも、彼らの出身国はフィリピンでまちがいないだろう。「メヌード」とはトマトベースの煮込みで、もともとはメキシコ料理だがフィリピンでは豚肉とレバーを使ったものが人気のようだ。

メイロンというのは中国風の名前のような感じもする。家の中に中国語のタペストリーが複数あることからして、中国系まじりのフィリピン人かもしれない。

ゴーガンが級友に自転車を奪われるシーンでは、白人の子どもたちが《FOB》と言ってゴーガンを罵っていた。これは英語のスラングでfresh off the boat(ボートから降りたばかりの新人)、つまり最近になって移民したアジア人に対する侮蔑の意味を持っている。
このように、親の目の届かないところでいじめられているゴーガンが白人に対し敵意を持つのも無理からぬことと思える。

終わりに

初めの頃、殺意を認めなかったエドガーだがセッションから脱走した先で、ゴーガンやメイロンの意識に入り込み、自分が知らないところで家族がつらい思いをしていたことを知ると、意識が変わり、罪を認めるようになる。
二度見る際は、エドガーの気持ちの移り変わりに注目して見るのがおすすめだ。

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黒いジョヴァンナ
黒いジョヴァンナ
生来のホラーマニアで、学生時代には『新耳袋』『怖い本』『東京伝説』などを集め読破した。漫画好き、映画好きでもある。