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本当に怖い、山岸凉子の名作短編漫画

本当に怖い 山岸凉子の名作短編漫画

学生時代に購読していた『ダヴィンチ』の連載『舞姫ーテレプシコーラ』の初回で頭をガンと殴られて以来、私は漫画家・山岸凉子先生を愛し、追い続けている。
先生は電子書籍を拒否されているふしがあり、一冊として電子化されていないのがつらいところだ。しかし1人でも多くの人に山岸作品を布教して次の世代に伝えなければという使命感から、今回記事を書くことにした。

山岸先生と言えば、史実を基にしながら大体な解釈を加えて聖徳太子の人生を壮大に描き切った『日出処の天子』が代表作として知られる。と同時に人物の心理を繊細に描き、読者の心をえぐるようなサスペンス・ホラー短編の名手でもおられる。

サイコサスペンスに関しては以前巧みに紹介した記事を読んだことがあるため、この記事では「正統派ホラー」(あるいは怪談)と呼べるものを4編紹介する。

『わたしの人形は良い人形』

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あらすじ

昭和21年、幼い千恵子は母が大事にしていた市松人形を譲られる。その直後いっしょに遊んでいた隣家の初子が事故で亡くなり、責任を感じた母は「初子ちゃんのお棺に入れてください」と人形を遺族に渡した。それは不幸が友人に及ぶ「友引」を恐れ、せめて、死出の旅の道連れにして欲しいという願いでもあった。ところが初子の祖母が「もったいない」と人形を棺から出し、密かに隠してしまう。
間もなく千恵子は上水に落ちて亡くなり、近所では「初子ちゃんが呼んだんじゃないか」と噂になる。

10年後。初子の祖母が亡くなり、しまっておいた人形が出てくると同時に異変が起こる。人形を次に受け継いだのは、初子の妹・姿子(しなこ)であった。

出典:山岸凉子『わたしの人形は良い人形』1986年出典:山岸凉子『わたしの人形は良い人形』1986年

見どころ

呪われた人形がどこまでも追ってくるという古典的なお話を、時代が移ると共に持ち主が変わり、主人公が入れ替わる仕組みでおもしろく描いている。

端正な人形の美しさと怪異が起こるシーンとのギャップが凄い。死体や血の描写を一切抜きにして、おどろおどろしく見せるストーリーと絵の力は圧巻。
少女のおののく姿が緊張感を高め、読者はハラハラしながら次のページ、次のページへと急ぐことになる。

出典:山岸凉子『わたしの人形は良い人形』1986年出典:山岸凉子『わたしの人形は良い人形』1986年

文春文庫:わたしの人形は良い人形 所収
潮出版:山岸凉子スペシャルセレクションI 所収

『汐の声』

あらすじ

「17歳の霊感少女」として売り出し中のタレント・サワは、テレビ番組の収録のため無人のある屋敷を訪れる。本当は霊感に自信のないサワは、両親の意向に沿って嫌々来ており、どうかボロが出ないようにと神経をすり減らしていた。

屋敷には前の住人が不審な死を遂げたといういわくがあり、サワは次々に怪異に遭遇する。しかし、番組の制作スタッフはサワの言うことはインチキで「やらせ」だと鼻で笑い、信じようとはしなかった。

出典:山岸凉子『汐の声』1982年出典:山岸凉子『汐の声』1982年

見どころ

霊感などありはしないと、本人も周りの大人たちもわかっているのに、テレビの企画のために「霊感少女」を演じなければいけないプレッシャーで神経を尖らせるサワ。途中までは思春期にありがちな少女心理を描いたサイコスリラーとして読めるのだが、後半、怒涛のように恐ろしい出来事が次々とサワを襲う。
突然に現れる怪異を描いた図が、また、美しくも恐ろしい。
結末では想像もしなかったオチに背筋が寒くなった。

文春文庫ビジュアル版:わたしの人形は良い人形 所収
潮出版:山岸凉子スペシャルセレクションⅡ 所収

『ゆうれい談』

あらすじ

漫画家・山岸凉子の仕事場では、深夜の作業中、アシスタントや友人の漫画家たちと眠気ざましにゆうれい話を語るのが日課になっていた。

  • 東京、国分寺。石垣が長く続く道での深夜の遭遇。
  • また福岡。萩尾望都が実家で暮らす頃に、寝室で見た怪しい人影の話。
  • 一条ゆかりのアシスタントであった宮本令子が、子どもの頃に見たふしぎな夢の話。
  • 締めくくりは、山岸凉子本人が九州を旅行中に泊めてもらった知人宅で遭遇した怪異。
出典:山岸凉子『ゆうれい談』1973年

見どころ

少女誌『りぼん』1973年6月号の付録に収録されたという性質上、絵柄は丸くコミカルで、低学年のお子様に親しみやすいタッチで描かれている。ところが、内容は本格怪談。よくもまあ、仲間同士でこれだけ怪異に出くわすものだと感心するぐらい、大勢の漫画家から集めた話がバリエーション豊かに繰り出される。

いつも通りグロテスクな話や描写は一切排除しながら、それでも怖がらせられる「動きのある絵」がスゴイ。

最後の本人登場では、「静止している図」で圧倒的な恐怖を描き出している。この一コマはよく覚えている、忘れられないという話はこの年代の人に多い。

MF文庫:ゆうれい談 所収

『グール(屍鬼)』

あらすじ

乗っていた船が遭難し無人島に漂着した青年は、先に、同じように遭難したという女と出会う。しばらくは島で採れる果物を食べて暮らしていたが飽きてしまい、魚や鳥をとろうと試みる。しかし、どうしてもとれない。この島には、どこかおかしなところがあった。

出典:山岸凉子『グール(屍鬼)』1979年出典:山岸凉子『グール(屍鬼)』1979年

見どころ

短いページ数でスリリングな無人島サバイバル生活を描いても、ただでは済まないのが山岸作品。少女漫画の繊細な絵柄で洋装の人物を描いているが、実は平安時代に書かれた『往生要集』を下敷きにしているようだ。(最近水木しげる先生の著書を読んで、気づいた。)

古典文学を下敷きにして、いつの時代にも普遍的な人間心理をえぐる作品を編み出すのは山岸先生の得意技である。

文春文庫ビジュアル版:シュリンクス・パーン所収
潮出版:山岸凉子スペシャルセレクションI 所収

おわりに

この記事ではなるべく手に入りやすいものを紹介し、収録されている本も明示したが、電子版がないと作品を長く読み継ぐにはどうも不都合だ。今回紹介した中では『ゆうれい談』が絶版になっており、中古で手に入れるより他にない。

その他の話は潮出版の『山岸凉子スペシャルセレクション』に収録されているので、新しいものを買って読むことができる。大判で山岸先生の美麗な絵を堪能できる愛蔵版的な性格のシリーズだ。

小さいサイズの文春文庫ビジュアル版は絶版だが数多く出回っており、ブックオフやアマゾンマーケットプレイスで比較的容易に手に入れることができる。
山岸ホラーの入門編として一冊選ぶなら、私は『山岸凉子スペシャルセレクション』の第1巻を勧める。当記事で紹介した2作のほか、奇妙な味の短編『ハーピー』と私が大好きな名作『白眼子』が収録されている。

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ABOUT ME
黒いジョヴァンナ
黒いジョヴァンナ
生来のホラーマニアで、学生時代には『新耳袋』『怖い本』『東京伝説』などを集め読破した。漫画好き、映画好きでもある。