外薗昌也(ほかぞの・まさや)先生の実話系怪談シリーズが好きだ。
高港基資(たかみなと・もとすけ)先生とのコンビによるマンガは『黒異本』『赤異本』『白異本』の順に単行本となっている。
この記事では、2冊目の『赤異本(あかいほん)』を紹介したい。
『赤異本』 原作:外薗昌也、作画:高港基資、2016年8月刊行、日本文芸社
目次
収録話
- 木の立ちふさがる家
- AV女優 前編
- AV女優 後編
- 動かぬ少女
- 死んでいる人間
- 座る男
- めまし
解説
『赤異本』というタイトルは忌み言葉の「赤不浄」からきている。「赤不浄」とは経血の穢れ(けがれ)を表す言葉だ。
経血に関連してセクシャルな要素を持つ話が多く原作には集められている。
そんな『赤異本』から、高港先生の手で8話をマンガ化したのがこの作品集だ。
『木の立ちふさがる家』は山の廃屋に入り込んだ若者の体験談。
『AV女優』はある監督の撮影現場に現れたAV女優のオバケの話。
『動かぬ少女』は廃校舎に佇む少女の幽霊の話。
『死んでいる人間』は生きたまま死んでいる人間に出会った話。
『座る男』はいじめで自殺した男の霊が寝室に現れる話。
『めまし』はある宗教団体に伝わる秘密の儀式の話。
私が選ぶ最恐エピソード:『死んでいる人間』
【あらすじ】
マンガ家の高岬は、出版社主催の合同サイン会でAという女性マンガ家と出会った。彼女は美人だがマネキン人形のように人工的な印象で、生きている感じがしなかった。
その晩、高岬の妻はこんな夢を見たという。
真っ暗な夜の海で舟に乗っていると、海にたくさんの死体が浮かびあがってきた。その中にとても美しい女性がいて、海に浮かびながら目を開けたので助けようとするが、舟の漕ぎ手である老婆に止められる。「およし、この子はもう死んでるんだよ」

高岬の妻には、未来を予知したり過去のことを言い当てる不思議な能力があった。
翌週、2度目のサイン会で高岬は再びAと同席することになった……。
このエピソード、語り手のマンガ家に高港先生の名をもじった姓名があてられているが、実際には外薗先生の体験談だ。
原作には、Aの過去に一体どんなことがあったのか、一言、二言記されているのみで具体的なことは一切わからない。しかし、マンガには読む者が「うっ」と言葉に詰まるような出来事が凄惨な絵柄と共に記されている。
この話の後半部分は、おそらく体験者の外薗先生から伝え聞いた内容を基に、高港先生がフェイクをまじえて構成した創作ではないだろうか。
可愛らしい女性の顔が豹変し、うつろな目と狂気じみた笑顔で恐ろしい過去を告白してくる。このビジュアルと話の酷さにぞっとする。


「人が怖い」と思わされる怪談だ。
高港基資先生の作画の魅力
高港先生は読者によりいっそうのショックを与えるため、原作に脚色を加えている。
例えば上記の『死んでいる人間』では、Aの過去に遊覧船の事故のエピソードを挿入している。これは高岬夫人の夢に舟が登場したことに関連して付け加えた創作ではないだろうか。
過去と現在で要素をリンクさせることによって、夢で見た景色をより印象づけている。
幻視のシーンはたった4ページだが、恐ろしくも美しく、心に残る景色だ。
高港先生は絵の演出も凄い。例えば、冒頭でいきなりAの眼球にコバエが止まる。

美しい目なのに……。
「生きながら死んでいる」ことを暗示させるシーンだ。
などなど……。
原作を何度も読んでいるのに、マンガを読むとまた驚いてしまうところが多数ある。
再現度が高い上に、絵柄によって新鮮な驚きを味わえるマンガだ。
終わりに
『赤異本』は「人間が怖い」系の話が多いため、サイコホラー好きにもおすすめだ。
紹介したエピソードと同じぐらい怖いのが『AV女優』『めまし』など……。文字に起こすのが恐ろしいぐらいにまがまがしい話が多いので、概要のみをかいつまんで紹介させてもらった。
興味を持った方は、ぜひ実際のコミックを読んでいただきたい。
活字による原作は電子書籍『異能怪談 赤異本』として入手可能である。