私の愛読する『新耳袋』に『赤真似』という話がある。類似の話が他の巻にも収録されており、どれも不可解なエピソードとして印象的だった。
そっくり同じ話を『怪奇まんが道 奇想天外篇』で読んで驚いた。
この話、外薗昌也先生の体験談だったのか……!
同じ話を体験者の外薗先生自らマンガにしたり、怪談として活字でまとめていることを最近知った。
この記事ではそれらのバージョン違いを、刊行順にまとめて紹介したい。
目次
『新耳袋』第7夜所収 『赤真似』
木原浩勝・中山市朗共著、(2002年6月、メディアファクトリー刊行)2005年6月刊行、角川文庫
怪談を99話集めて本にしたシリーズ。大ヒットして全部で10巻が刊行され、劇場オリジナルストーリーも複数上映された。
このうちの第7巻(p123)に収録された、わずか2ページの短い話。
あらすじ
Hさんが練馬区のアパートで漫画家仲間と同居していた頃、アパートに妹を名乗る女が訪ねてきた。
「おにいちゃん、おにいちゃん」
「カズミか?」
「そう、カズミよ、カズミ。だから開けて」
しかし、Hさんはその声に聞き覚えがなかった。
不審に思って台所の窓を少し開け、玄関の前をのぞくと、髪の毛からつま先まで全身真っ赤な女が立っていた。
その女はしゃべるときに手で口を触る妹のクセを真似していた。
感想
「赤い女」が「妹の真似」をしている点にフォーカスして描写されている。
類似の話が、あと二つ(第六夜『訪問者』、第七夜『赤童子』)『新耳袋』に収録されている。全身真っ赤な人の形をしたものが突然アパートを訪れてくるが、こちらには全く心当たりがない、こわい、という話。
ぜひこの3つは合わせて読んでほしい。
私は、こういう「意味のわからないこわい話」が大好物である。『新耳袋』シリーズの楽しみはこういうものが延々と読めるところにある。
漫画:『赤い妹』所収 『赤い妹』
外薗昌也・著、2009年6月刊行、竹書房
外薗先生自身の手によるマンガ。全35ページ。エンターティメント作品として大幅に脚色され「オチ」が追加されている。
無料ためし読みはこちらのサイトから→恐ろし屋 『赤い妹』
あらすじ
レンタルビデオ店でアルバイトする主人公の大学生は、店長から『赤い妹』というタイトルのビデオを押し付けられた。事故で亡くなった妹をモチーフにした自主制作映画で、ストーリーは意味不明、撮影や編集はシロート同然の作品だが「この映画を見た人のところに、妹が訪れる」といういわくつきの代物であった。
果たして、ビデオを観た彼のもとに深夜「妹」がやって来る……。
感想
ただの不条理な話で終わらず、オチが追加されている。都市伝説のような『リング』シリーズのような……。(後述する『インソムニア』のバージョンでは「呪怨風」にしたというセリフがあった。)
妹の髪型や、制服の上にゆったりしたニットカーディガンを着ているところは、比較的最近の女子高生に近い感じがする。目が大きい可愛らしい顔だが表情に乏しく、非人間的な印象を受ける。
『赤い妹』は短編で、他の短編が6話同時収録されている。他の話も、Jホラー的なビジュアルのこわさがあっておもしろい。
漫画:『インソムニア』1巻所収 『赤い妹事件』
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外薗昌也・著、2011年9月刊行、アスキー・メディアワークス
『インソムニア』は外薗先生が登場する実話っぽい話と、フィクションのマンガが交互に収録されている。比較的短い話が多く、実話っぽいところがこわい。全2巻(完結)
『赤い妹事件』は1巻第5話に収録されている、全22ページのマンガ作品。
『白異本』収録話の前半部分を、外薗先生自らの手でほぼそっくりマンガにしている。
あらすじ
昭和56年、20台前半。駆け出しのマンガ家だった外薗先生の元へ、妹を名乗る少女が現れる。少女は顎をなぜる妹のクセまで真似して見せたが、全身がペンキでもかぶったように真っ赤だった。
30年後。マンガアシスタントの大石くんにこの話を聞かせると、大石くんは頭を抱え激しくおびえた。
「僕の体験した《あれ》は怪談だったのか……」
商業誌向けにあれこれ創作・脚色を加え、ネームを完成させて大石くんを呼ぼうとすると、連絡がつかない。あれから大石くんは精神を病んでしまい、自宅に引きこもっていた。
感想
ここに描かれている姿が《実像》にもっとも近いと思われる。外薗先生は丸顔でめがねをかけ、天然パーマ。当時高校生だった妹はやはり丸顔で、髪型はショートボブ。冬服のセーラー服を着ている。表情は上目遣いで、やや挑戦的だ。
『電撃コミック・ジャパン』掲載時は、冒頭の「妹」が訪ねてくるシーンはカラーだったらしい。おそらくデジタル制作だろう。単行本ではモノクロになっているのが残念。どういう色調の赤だったのか、見てみたかった気もする。
実話をマンガで読みたければ、このバージョンがおすすめ!
『白異本』所収 『赤い妹事件』
外薗昌也・著、2014年8月刊行、廣済堂文庫
『赤異本』『黒異本』に引き続き出版された実話怪談のシリーズ。
外薗先生自らの手で、活字によって後日談も含めた全体のエピソードが収録されている。
全体像をもれなく読みたい場合には、こちらがおすすめ!
あらすじ
まずはじめに、外薗先生の視点で『赤い妹』のエピソードが語られる。
30年後、外薗先生は漫画作業中にこの話を急に思い出し、アシスタントのオオイシ君に聞かせるとオオイシ君はこわがって青ざめていた。それで「この話は《怪談》だったのか!?」と気づき、漫画化することにした。
その後すぐオオイシ君と連絡が取れなくなり、編集者と二人でアパートを訪ねると、オオイシ君は精神を病んでしまい自宅に引きこもっていた。
そんないわくつきの『赤い妹』の話を、外薗先生は自主制作で映画化することになる。脚本・監督を務めるのは『鬼畜島』の編集・マツウチさん。映画は完成したが、未だ上映のめどは立っていないという。
感想
アシスタントのオオイシ君に『赤い妹』の話を聞かせたら、心を病んでしまった。因果関係はよくわからないが、この話が引き金になってしまったのだろうか……と思わせる話。
マンガでは省略されたディテールや映画制作の経緯も詳しく書かれていて興味深い。
《追記》
外薗先生は2019年4月22日のツイートで、アシスタントのオオイシ君の消息にふれている。(下記ツイートのツリー参照)
オオイシ君は事件の後、マンガを描くことができなくなり故郷へ帰ったとされていたが、その後元気を取り戻し、最近ではまたマンガ制作に意欲を見せているらしい。オオイシ君の近況に接して、私もほっとした。
赤い妹事件のアシさんに久々に再会
僕から赤い妹の話を聞いて震えあがり、半泣きでアパートに帰った彼が鍵をあけると、目の前でドアノブがゆっくりと回転したという
室内から誰かがドアノブを回している
誰だ!と叫んだところまでは覚えているという
それ以上は話してくれなかった#呟怖 pic.twitter.com/D7G8abI00u— 外薗昌也 (@hokazonomasaya) 2019年4月21日
漫画:『怪奇まんが道 奇想天外篇』所収 『外薗昌也の本音』
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原作:宮﨑克、漫画:あだちつよし、2017年12月刊行、ホーム社
ホラーマンガ家に取材して、作品を描き続ける原動力やパッションを描いたノンフィクションシリーズ。このシリーズ自体、大人気のマンガ家が多数登場しておもしろい。
これまでに2冊が刊行されている。
外薗先生が登場する『奇想天外編』第3話、全40ページのうち、『赤い妹』のエピソードは冒頭の3ページにまとめられている。
無料ためし読みはこちら→恐ろし屋『怪奇まんが道』第8話『外薗昌也の本音』
あらすじ
高校時代の外薗少年は、萩尾望都・著『ポーの一族』を読んで衝撃を受け、マンガ家になりたいと志す。上京してほどなく月刊誌での連載を始め、順調に成功したマンガ家の道のりを歩んでいくが、内心では何かしっくりこないものを感じていた。
ついにスランプに陥り、ある日編集者から「読者に”愛”とか”夢”とか”希望”とか! 与えたくないんですか!!」と叱咤されて、自分の本音に気がつく。
「そんなキレイ事、本音で思ったことなんか1秒たりともありません!!」(『怪奇まんが道 奇想天外篇』p133より)
これからはハッピーエンドにとらわれず、本音で自分の好きなことだけを描こう!と決め、本格的にホラーマンガへ舵をとっていくのだった。
感想
冒頭に登場する妹のビジュアルは竹書房版の『赤い妹』を踏襲している。
個人的には『新耳袋』で読んだ短いエピソードをそのまま3ページにぎゅっと縮めているので、インパクトがあった。
終わりに
ホラーマニアとしては同じ話の実話版・フィクション版、他の作家・マンガ化による作品と読み比べてみて、それぞれおもしろかった。
活字好きなら『新耳袋』と『白異本』を、マンガ好きなら『赤い妹』と『インソムニア』版とそれぞれ読み比べてみるのがおすすめだ。
マンガでは可愛らしい女子高生のキャラクターとして「真顔」で描かれているが、実際には夕闇の中、知らない女が妹のふりして「真顔」で……とシチュエーションを想像すると、恐ろしい。
また、類似の「赤いもの」が訪れる話が『新耳袋』に紹介されており、ひょっとして似たような体験をした人が他にもいるのかもしれない。今後も引き続き、情報収集していきたい。