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川口まどかの短編『夕焼けを幽霊は見ている』【ネタバレ・感想】

川口まどかの短編『夕焼けを幽霊は見ている』【ネタバレ・感想】

10歳の頃、川口まどか先生の『死と彼女とぼく』と出会い、いっぺんに引き込まれた。以来、私はこのシリーズを20年以上追い続けている。
特に第1シリーズは幼い日に幾度となく読み込んでおり、思い出深い。連作で1話完結方式の『死と彼女とぼく』がどれもしんみりとあたたかい余韻を残すのに対し、同時収録の読み切り短編は切れ味の鋭いブラックユーモア作品が多かった。
この記事では、そうした短編ホラー作品の中から1993年に発表された『夕焼けを幽霊は見ている』を紹介したい。

ストーリー

「わたし」は病気のため2週間前から入院している。同じ病室のスドウさんは室内でタバコを吸うので、みんなから嫌われていた。

出典:川口まどか『夕焼けを幽霊は見ている』1993年出典:川口まどか『夕焼けを幽霊は見ている』1993年

ある日わたしは薬で朦朧として変な夢を見た。
ナースが病室でタバコを吸い、わざと煙を吹きかけてくるので、たまらず廊下に出た。

出典:川口まどか『夕焼けを幽霊は見ている』1993年出典:川口まどか『夕焼けを幽霊は見ている』1993年

一つ目の宇宙人が叫び声を上げ、走ってくる。

出典:川口まどか『夕焼けを幽霊は見ている』1993年出典:川口まどか『夕焼けを幽霊は見ている』1993年

逃げようとすると、床を突き破って赤鬼が腕を伸ばし、わたしに迫る。

窓の外は真っ赤な夕焼け。
スドウさんが廊下に佇んで夕焼けを見ていた。

「きれいよ。いっしょに見ましょう」
わたしが断り、立ち去ろうとするとスドウさんはしつこくすがってきた。
「ひとりにしないで。いっしょにきてよ」
「やめてください。誘惑しないでスドウさん!!」


そこに一つ目の宇宙人が現れ、わたしは悲鳴を上げた。
「おちついて。きみ、おちつくんだ」
消防士だった。病院から火が出て、わたしは煙にまかれ危うく逃げ遅れるところだった。

翌朝、スドウさんの遺体が発見された。
火事の原因は、タバコの火の不始末だったという。

作品解説

『夕焼けを幽霊は見ている』は、たった16ページの短いページ数で起承転結をつけ、謎解きをするサスペンス作品だ。
話の隅々まで伏線が張り巡らされ、パズルがはまるようにピタッと終わるのが心地よい。

少女の夢の中の奇怪な出来事……と捉えていたものが、意識が朦朧とする中で見た煙や消防士や火柱(赤鬼の腕)など、火事のワンシーンだったと後でわかる。
冒頭、看護師の誘導で避難しようとしていたはずの少女がいつの間にかはぐれてしまったのは、スドウさんが呼んだためだろう。
スドウさんが道連れにしようとしていたのが夢ではない証拠に、少女の頬にはベッタリと赤い口紅がついていた。

こうした小道具の使い方まで、実に鮮やかだ。

見どころ・感想

前半で見せられた幻想シーンが全て火事を示していたことが、後半一気に明かされるところがおもしろい。
例えば、一つ目の宇宙人が消防士を表していたり、煙にまかれているシーンなどなど……。
謎解きがわかってから見直すと、あっと驚くような表現になっている。

スドウさんは巻き毛のアップスタイル、泣きぼくろ、真っ赤な口紅という記号を組み合わせて、わかりやすくセクシーに描かれている。 この話、主人公を少年ではなく少女に設定しているところが川口先生らしい。大人の女性が少年を誘惑するとなると、話の方向性が全然変わってしまうからだ。

これまで特別な交流もなかったのに、ほんの少し好意を持っていたというだけの理由で少女を選び、連れていこうとしたスドウさんは、さびしい人だ。
少女相手に抱きついたり、口づけで誘惑している姿が余計に悲しい。そういう方法でしか人と交流できなかったんだろうか……?

結果として少女は拒絶したが、全く心が揺れなかったわけではない。
さびしい女とさびしい少女は、どこか通じ合うものがあったからこそ、夕焼けの廊下でめぐり会ったのだろう。

出典:川口まどか『夕焼けを幽霊は見ている』1993年出典:川口まどか『夕焼けを幽霊は見ている』1993年

この夕焼けのシーンは、幼心に、さびしくて綺麗だと感じた。
私の大好きな作品の一つである。

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黒いジョヴァンナ
黒いジョヴァンナ
生来のホラーマニアで、学生時代には『新耳袋』『怖い本』『東京伝説』などを集め読破した。漫画好き、映画好きでもある。