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マンガ

このマンガがすごい! 美内すずえの華麗なる悲劇

2016年刊行の『大人の少女マンガ手帖 オカルト・怪奇ロマン』を読んだ。

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ジャケットを始め、巻頭カラーの1~8ページ目までが往年の美内すずえ先生による豪華イラストで飾られている。
特集の「オカルト・怪奇マンガ BEST10」でも1位は美内すずえ『白い影法師』。また7位に『妖鬼妃伝』がランクインし、少女ホラー漫画史における美内先生の存在感を見せつけた。

2017年「このマンガがすごい!comics」として『美内すずえセレクション 黒の書』が、続いて2018年には『白の書』が出版された。
これらは大判サイズのソフトカバーで、巻頭にはそれぞれカラーの口絵が収録されている。内容としては短編~中編作品が3話ずつ収録され、巻末に作者自身による作品解説がついている。内容たっぷりの分厚い本だ。

『黒の書』におさめられた『妖鬼妃伝』『黒百合の系図』は低年齢向けの少女冒険活劇として、『白の書』におさめられた3作は、もう少し年齢が上の少女向けのミステリーとして、それぞれおもしろく読んだ。

往年の読者にとってはどちらも懐かしく思い入れがある作品ばかりだろうが、大人になってから初めて手に取った私としては、『白の書』の方が謎解きの要素がある分、スリリングでおもしろかった。
この記事では『白の書』を中心に、2冊の単行本の見所と感想を紹介したい。

目次

『13月の悲劇 美内すずえセレクション 白の書』の内容紹介

原画ギャラリー

『孔雀色のカナリア』『13月の悲劇』より、
見開きイラスト・小カットがカラー・モノクロ・2色刷りも合わせて、原稿全体を丸ごとおさめる形で8ページにわたり収録されている。

収録作品

  1. 13月の悲劇
  2. 白い影法師
  3. 孔雀色のカナリア

美内すずえセルフ作品解説

それぞれの作品の着想を得たきっかけについて、美内先生が自ら解説している。
あまりにも原稿が忙しく、旅館にカンヅメとなって漫画を描き続けた日々から少女が学園に閉じ込められる『13月の悲劇』を。友だちとの旅行で古い旅館に泊まった時に出会った怪異をエピソードに織り込む形で『白い影法師』を。3日に渡って見続けたつらい殺人の夢から『孔雀色のカナリア』を……。

各話あらすじ紹介

『13月の悲劇』

人気俳優の私生児マリーは、母の病死をきっかけにイギリスにある全寮制の学校に送られることとなった。
その名も「聖バラ十字学校」。伝統ある女子校で修道女たちによって宗教を中心とした教育がされるという。学校の規則は厳しく、外出は禁止、門外の人との交際禁止、手紙のやりとりの禁止が強制されていた。 生徒たちはみな一様に無表情で青白い顔をしており、水曜日の真夜中には礼拝に集められ主に祈りを捧げる習慣だ。
キリスト教の学校と見せかけて、ここで行われているのは悪魔崇拝では!?とマリーが気づくシーンがハイライト。マリーは悪魔教に染まっていない友人のデボラとしめし合わせ、脱出しようとするが……。

出典:『13月の悲劇 美内すずえセレクション 白の書』宝島社、2018年出典:『13月の悲劇 美内すずえセレクション 白の書』宝島社、2018年、p86

『白い影法師』

高校2年生の涼子は、父の仕事の都合で私立の女子高に転校することになった。涼子は中央の最後列に座るよう指示されたが、窓際前から4列目の席が不自然に空いていることに気がつく。その席は、5年も前から空席のままにされているらしい。
涼子は目が悪いことを理由に空席に移ることを希望すると、みんながぎょっとした顔で振り返った。実際その席に座ってしばらくすると、目に見えない人の気配がして背中に冷や水を浴びせたようにゾーッとするのだ。

出典:『13月の悲劇 美内すずえセレクション 白の書』宝島社、2018年出典:『13月の悲劇 美内すずえセレクション 白の書』宝島社、2018年、p154

『孔雀色のカナリア』

亜紀子は17歳。私生児として生まれ母から虐待されて育った。母は亜紀子が高校に上がる頃病気で亡くなったのだが、実は亜紀子は双子として生まれたうちの一人で、もう一人の子は金持ちの紳士に引き取られたのだと打ち明けた。その子は死産だった実の子どもとすり替えられ、紳士の子として育てられているはずだと……。 母亡き後は高校へも通わせてもらえず親戚にこきつかわれる亜紀子。ある日自分とそっくりな金持ちの令嬢を見つけ、彼女と入れ替わることを思い付く。

出典:『13月の悲劇 美内すずえセレクション 白の書』宝島社、2018年出典:『13月の悲劇 美内すずえセレクション 白の書』宝島社、2018年、p228

作品の感想

どの話でも、主人公は切羽詰まった状況から活路を求めてあがく。「どうか最後はハッピーエンドであってほしい」と願いつつ、読者は急ぎページをめくるわけだ。
ところが最後の作品『孔雀色のカナリア』だけは、「妹を陥れ、自分が金持ちの娘に成り代わりたい」という邪悪な動機を発端としているため、ハッピーエンドは望めそうにもない。秘密を隠して墓場まで持っていけたら亜紀子だけは幸せかもしれないが……。事態はむしろ坂を転がり落ちるように悪くなるばかり。

最初の2作品では、生きるか死ぬかのスリル。3作目は悪事が露見しないかどうかのスリル。1冊で真逆のスリルを味わえるのが楽しい。

おすすめポイント:美内先生の知られざる制作エピソード

これらの本では作品の魅力もさることながら、美内先生のインタビューが載っているのがうれしかった。

記事の冒頭に紹介した『大人の少女マンガ手帖』では、先生の近影と共に6ページ渡るインタビューが掲載されている。
内容は作品の着想のきっかけなど。これをさらに拡大して詳細に解説したものが、単行本それぞれの巻末に載っている。

先に出た『黒の書』の巻末に『美内すずえ20,000字セルフ作品解説』として、前半は収録作品『妖鬼妃伝』『黒百合の系図』『ひばり鳴く朝』の解説、後半は『ガラスの仮面』の連載が始まった頃のハードな締め切り生活について振り返る内容だ。

当時美内先生は西荻窪に住んでおり、南口にあった24時間営業の喫茶店が気に入って3〜4日も居座り、家に帰らないこともあったらしい。お店の人たちは美内先生があまりに打ち込んでいるためかそっとしておいてくれて、だれも仕事のじゃまをしたりせず、オーダーしたものをひたすら運んできてくれたそうだ。美内先生がずっと居座るので近所では評判になっていたらしく、ある日ふらっと入った美容院で「美内すずえ先生ですよね?」と素性が知られていてビックリしたという話がおもしろかった。

このように制作の背景や締め切り生活について書かれているのは、先に刊行された『黒の書』の方だ。

終わりに

20年前からラストシーンのセリフや構図までばっちり決まっており、そこに向かって描き続けているという『ガラスの仮面』。また単行本4巻までで休止中の連載『アマテラス』も、美内先生は早く続きを描きたいと話していた。創作意欲旺盛な美内先生の今後も楽しみであるし、また、今回セレクションから漏れたホラー作品(『白ゆりの騎士』『人形の墓』『魔女メディア』など)もどうにかして入手して読みたいと思っている。

ABOUT ME
黒いジョヴァンナ
生来のホラーマニアで、学生時代には『新耳袋』『怖い本』『東京伝説』などを集め読破した。漫画好き、映画好きでもある。