2021年9月。三鷹市美術ギャラリーにて開催された『諸星大二郎展 異界への扉』を観に行ってきた。
過去に銀座スパンアートギャラリー、渋谷タワーレコードで開催された小規模の展覧会は鑑賞済みだが今回のように大々的な展示を観るのは初めてだ。
諸星先生の生原稿と共に、発想の源泉となった東西のアートや民俗資料が並んで展示されるユニークな展覧会だった。
この記事では私が特に印象に残ったものをピックアップして紹介したい。
1. オリオンラジオの夜
私は『栞と紙魚子』以降の読者だ。過去の作品も後追いで読んでいる一方、比較的最近のものほどリアルタイムでふれており思い出深い。
展示では『オリオンラジオの夜』第1話の『サウンド・オブ・サイレンス』(展示番号12)を見られてうれしかった。
暗い夜空にホワイトで点々と星が表現される。
山の向こうには女性の顔が……。
画面の中央部分が切り貼りで修正されており「なにもないところなのに、なぜ……」と思った。
もしかして、はじめは中央に描いていた女性の顔の位置を右側にスライドしたのかな?
先日放送された『漫勉』を観た後なので、どういうこだわりによって修正されたのかが気になった。
2. 妖怪ハンター
『妖怪ハンター』の名シーンの数々を生で見られたのも感激だった。
『うつぼ舟の女』の原稿(展示番号22)と並べて展示されていた資料には驚いた。
出典は西尾市岩瀬文庫所蔵の『漂流記集』(展示番号14)だ。
江戸時代に常陸国の原舎ヶ浜に漂着したという女性の姿が描かれている。
18〜20歳ぐらいの女性で顔は青白く眉や髪は赤色だったという。言葉は通じず白木の箱を大切そうに抱え人を寄せ付けなかった。
髪型はお団子の先をポニーテールにして垂らし、ハイネックにボタンの上着とゆったりしたパンツのようなものを着ている。異人風の服装だがこの時代に女性がパンツを穿いているのは珍しいのでは……。
女性が乗っていたのがアサリのようなニ枚貝を合わせた形の舟だ。
もしかして、UFO?
この女性がどこから来て、その後はどうしたのか……詳細が気になった。
『妖怪ハンター』は早いとこ愛蔵版出してもらえないかな。できれば潮出版から……。
Kindleもいいけど大きい見開きで見たいのよ。
文庫はね、もう、字がちいちゃくて無理。
3. 西洋画
諸星先生が西洋画に興味を持ち幅広くご覧になっていることがわかり、おもしろかった。
特にフランドル絵画とシュルレアリスムがお好きなようだ。
印象的だったのは、レオ・レオーニが描いた架空の博物誌『平行植物』(参18)とエリック・デマジエールの銅版画による『バベルの図書館』(展示番号78,80)
それぞれ、古本屋を舞台にした作品『栞と紙魚子』の『本の魚2』2001年(展示番号66)と同作品の『ラビリンス』1998年(展示番号63)に登場する。
エドモン・デュラックの『雪の女王ほかアンデルセン童話集』より『人魚姫』(展示番号68)も良かった。
こんな繊細な作品が木版画とは驚いた。他の作品もぜひ見てみたい。
『平行植物』は今も普通に入手できそうね。
エリック・デマジエールとエドモン・デュラックは版画だし、一般人が簡単に入手できるものじゃなさそう。稀覯本のたぐいじゃないかしら。
ポール・デルヴォーの『海は近い』(展示番号91)は関連作品が明示されていないが、お好きな画家ということらしい。
ベルギー生まれ。デ・キリコの影響を受けたシュルレアリスムの画家だ。
この画家は以前に私もどこかで目にしているように思う。見覚えのある作風だ。
姫路市立美術館で139点、横浜美術館で18点も所蔵しているようなので、今後展示があれば足を運んでみたい。
4. 諸星大二郎作品キャラクター総選挙
入場の際にキャラクター人気投票の投票券を渡され、リストの中から1人を選んで投票してきた。
当選者には諸星先生が直筆でキャラクターを描いた豪華色紙がプレゼントされるそうだ。
(郵送投票は不可。会場で配布される投票券でのみ受付)
私はクトゥルーちゃんのママ(in栞と紙魚子)に1票を投じた。
中国伝奇作品の見鬼や無面目も好きで、順位をつけがたかったが……。
人気ランキングの結果が楽しみだ!
私はあもくん(諸星先生の息子さんがモデル)に投票したよ!
今後の巡回予定
三鷹市美術ギャラリーでの展示は2021年10月10日(日)まで開催される。
入場は日時予約制。空席状況は公式Twitterでつぶやいているようだ。
三鷹市の後は、会場を栃木県足利市美術館に移し10月23日〜12月26日まで展示される予定だ。