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アート

『世界的コレクターと翻訳者、編集者が語るエドワード・ゴーリーの魅力と謎』イベントレポ

『世界的コレクターと翻訳者、編集者が語るエドワード・ゴーリーの魅力と謎』イベントレポ

2016年より全国を巡回していた『エドワード・ゴーリーの優雅な秘密』展が、2019年11月練馬区美術館で終幕した。

これを記念して、2019年11月27日、コレクターの濱中利信さんを囲み、翻訳者・柴田元幸先生と河出書房新社の編集者・田中優子さんがゴーリーの魅力を語るトークイベントが、青山ブックセンターで開かれた。
この記事では、イベントの内容の一部を要約して紹介したい。

夜の青山ブックセンター(渋谷)

夜の青山ブックセンター(渋谷)

私は仕事の都合で20分遅れで到着し、冒頭、編集の田中さんの解説を大部分を聞き逃してしまった。
おそらく、登壇者の紹介や河出書房での出版の経緯などのお話だったのではないかと推察する。途中から聞いた田中さんのトークが、軽妙で実におもしろかったので、大部分聞き逃してしまったのが悔やまれる……。

その後、コレクターの濱中さんがスライドを用いてお話された。
内容的には、これまでにいろんなところで話した内容と重複しているが、画像を見せながら話すのはめずらしい機会とのことだった。

最後に、翻訳の柴田先生の朗読コーナーがあり、3部構成のイベントであった。

目次

濱中利信さんのコレクター歴

日本で初めてゴーリーを紹介したのは、植草甚一氏。1976年『ミステリマガジン』誌上のことであった。
題名は『オードリー・ゴアの遺産』(The Awdrey-Gore Legacy. Dodd, Mead, 1972)。

内容はアガサ・クリスティに捧げるミステリー風の作品で、探偵が皆を集めたところで唐突に話が終わってしまい、事件が解決されない不思議な話だった。

この頃、少年だった濱中さんは『ミステリマガジン』を毎号購読しており、ゴーリーと出会った。

次にゴーリーが『ミステリマガジン』に掲載されたのは1978年。
『ギャシュリークラム(死んだ子どもたちのABC)』(The Gashlycrumb Tinies. Harvey Hutter, 1979)と『降りてくるもの』(The Sinking Spell. Ivan Obolensky, 1965)が2号連続で掲載されたのを読んだ。

前者は『ギャシュリークラムのちびっ子たち』として2000年に翻訳が出た。日本で一番売れているゴーリーの本だそうだ。

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1980年頃、濱中さんは大学生になって、三省堂書店に注文すれば洋書が買えるとわかり、5冊ほど注文したが1冊しか届かなかった。
それが『ドラキュラ』だった。切り抜いて組み立てるペーパークラフトの本で、ストーリーのある絵本ではないとわかり、がっかりした。

この本は復刊され、当時とは形が少し異なるものの、現在も入手することができる。

その後しばらくブランクがあって、アメリカにAmazon.comが登場した。
ゴーリーの本は初めは私家版として出版されており、部数も少なかったが、この頃復刊されてアメリカのAmazonで買えるようになった。

このときに濱中さんは『ギャシュリークラム』など3冊を注文した。

そのうち、Amazonの中古市場でゴーリーが安く買えることがわかり、古本屋のおやじさんとメールでやりとりするうちに仲良くなって、サービスで雑誌を送ってもらったりした。
さらにこのおやじさんの薦めで『ゴリオグラフィー』を購入。
『ゴリオグラフィー』には、この時点でのゴーリーの全仕事がまとめられており、今でも必須の資料である。

こうした資料を入手したことによって、ゴーリーの仕事は絵本だけでなく、他の作者の表紙イラストも多数手がけていることがわかった。
濱中さんはこの頃からゴーリーを集めるのに熱中し始め、毎日のように本を買い漁って、約1年後にホームページを開設した。

濱中さんが運営するサイト:Wonderful World of Edward Gorey

濱中コレクションの内容

濱中さんは、絵本はもちろん、原画や版画やその他のグッズもなんでも集めている。
今回の展覧会で「個人蔵」と書かれていたのは全て、濱中さんのコレクションだそうだ。

ゴーリーは初め、出版社でブックデザインの仕事をしていた。
そのうちに本職のイラストレーターがあまりに下手なので「自分の方が描ける」と言って、イラストやハンドレタリングまでも手がけるようになった。
また、有名になった後も、近所に住むミュージシャンの青年に頼まれてCDのジャケットを描いてあげたりと、細かい仕事までなんでも引き受けてしまう親切な一面もあった。

濱中さんは、そうしたアイテムを作家名で検索して買い集めている。欲しいのはゴーリーが手がけた本(洋書)のジャケットだが、ゴーリーが手がけたことと関係なしに、本自体が高騰していたり、少部数であまり市場に出てこないものもある。

濱中さんは、今回の展覧会に貸し出した以外にも大量のゴーリー表紙の書籍をお持ちであり、イベントではその画像をたくさん見せていただいた。
ご自身のホームページでも解説付きで多くを紹介されている。

濱中さんが運営するサイト:Wonderful World of Edward Gorey

柴田元幸先生による朗読コーナー

イベントの後半では、

  • ゴールデン・バット(The Gilded Bat. Simon and Schuster, 1966)
  • ブルー・アスピック(The Blue Aspic. Meredith Press, 1968)

2冊について、ゴーリーの絵を紹介しつつ、柴田先生が朗読するコーナーがあった。

未邦訳本をいち早く柴田先生の翻訳と朗読で楽しめるとは……。思いもよらない、贅沢な時間だった。

『ゴールデン・バット』(1966年)

『ゴールデン・バット』は、貧しい少女が有名なプリマに見出だされ、プリマバレリーナとして華々しく活躍するも、最期は飛行機事故で亡くなるという話だ。
少女の立身出世物語と、交互に挟み込まれる「それでいながらも、彼女の暮らしは全く楽にはなりませんでした」のフレーズの繰り返しが、あわれを誘う。

ゴーリーは振付師ジョージ・バランシンの熱烈なファンで、彼の作品を見たいがためにニューヨークに住み、ニューヨークシティバレエ劇場に連日通いつめたと言われる。

この作品には、そんなゴーリーの並ならぬバレエへの情熱があふれている。

特に、表紙絵が衝撃的だった……。金色のこうもりを模したコスチュームとポーズには、ぎゅっと胸をつかまれた。
(個人的には、山岸凉子先生の『舞姫ーテレプシコーラー』の各話扉のど迫力が思い出される。)
中のイラストでも、バレエのポージングの美しさや豪奢な衣装に終始目を奪われた。

このとき紹介された『ゴールデン・バット』は『金箔のコウモリ』として2020年11月、河出書房新社より出版された。

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『ブルー・アスピック』(1968年)

『ブルー・アスピック』もまた良かった。

美しいプリマドンナの成功と、彼女に執着する熱狂的なファンの男がどんどん落ちぶれていく様が交互に描かれる。
そして、プリマドンナの成功には、周囲のじゃまな人々の死の影がつきまとう。
なぜ、こんなにも彼女の周りで不審な死が続くのか。手を下しているのは一体だれなのか……。
結末に向けて緊張が高まり、手が届かないはずのプリマとファンの男、二人の人生が交錯するとき、悲劇が起こる。

初めは、彼女を成功させるためにファンの男が邪魔者を消してまわっているのかと推理した。しかし、途中で男は精神病院に入院してしまう。病院は簡単には抜け出せない。アリバイがあるわけだ。じゃあ、だれが……?

表紙ではプリマドンナがお皿にのせたブルー・アスピックを持っており、中に目を閉じた男の顔が閉じ込められているのが意味深だ。

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「アスピック」とは、柴田先生の翻訳では「にこごり」
フランス料理の冷菜で、肉や魚を煮たブイヨンを固めたいわゆる「ゼリー寄せ」のような食べ物らしい。

壇上の田中さんらは「これはサロメですよね」と話していた。
つまり、この絵は、恋した男を殺して首を持ってこさせよと所望した残酷な姫君の物語に題材を取っているわけだ。
『ブルー・アスピック』ではプリマに執着しているのがファンの男で、男女の関係性が逆転しているが……。察するに、人々を殺していたのはプリマではないかと柴田先生は話していた。

これも、ミステリアスで大変おもしろい作品だ。邦訳本が出るのが待ち遠しい。

感想

『エドワード・ゴーリーの優雅な秘密』展、練馬区立美術館にて

『エドワード・ゴーリーの優雅な秘密』展、練馬区立美術館にて

私にとって、ちょっと気になる存在だったゴーリー。

展覧会では未邦訳本のイラストだけではなく、書籍の表紙デザインやポスターなど、様々なイラストを見ることができた。ゴーリーが故郷の母親に宛てた手紙の封筒に肉筆で描いたイラストもあり、それらが1通1通、ものすごく凝った意匠で描かれていることに驚かされた。

『ブルー・アスピック』の原画を見たときは物語の内容を詳しく知らないので、解説を読んでも「ふーん」で終わってしまった。イベントで朗読を聞いたら俄然興味が湧いてきた。
早く本を入手して、もう一度じっくり絵をながめたい。

濱中さんの講演によって、ゴーリーの活動歴や米国での出版状況を知ることができ、大変有意義だった。

濱中さん自身もまた、すごい人だ。『ミステリ・マガジン』にちょっと紹介されただけのところから興味をもって洋書を探し出し、収集し、ホームページまで作ってしまうとは。それも、インターネット勃興期にだ。

青山ブックセンターの小会議室に集まったのは、20〜30人だろうか。小規模だが、内容は熱い、ファンミーティング的な性質のイベントであった。
濱中さんのコレクター歴を伺っておもしろかったし、私もなるべく多く翻訳本を集めて読みたいと思った。

濱中さんがゴーリーのイラストが描かれたゴム印を持ってきてくださり、拝借して手帳にポンと押して帰った。


貴重な機会をいただき、大変感謝している。

参考

今回の展覧会に合わせて出版された『MOE』のムックでは、ゴーリーの代表的作品や濱中さんの秘蔵コレクション、アメリカ・マサチューセッツ州に現存するエドワード・ゴーリーハウスの内部の様子などが紹介されている。
展覧会で見た絵封筒もp98に紹介されていた。

記事中の絵本の出版年などの情報は、ゴーリー・ハウスが公開している情報を参考にした。

エドワード・ゴーリー・ハウス(アメリカ・マサチューセッツ州・ケープゴット)

ABOUT ME
黒いジョヴァンナ
生来のホラーマニアで、学生時代には『新耳袋』『怖い本』『東京伝説』などを集め読破した。漫画好き、映画好きでもある。