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映画『鬼談百景』を原作と見比べる【ネタバレあり】

『鬼談百景』映画と原作の比較・あらすじ・感想

『鬼談百景(きだんひゃっけい)』は怪談専門誌『幽』において2004〜2010年に連載された短い怪談を99話集めたもので、2012年にメディアファクトリーより単行本として発行された。

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同時期に新潮社より刊行された小説『残穢(ざんえ)』と相互に関係する姉妹編である。

著者・小野不由美は、過去に『悪霊がいっぱい!?』から始まる少女向けホラー小説の作者として人気を博した。今で言う「ライトノベル」に近い形態の文庫シリーズである。
当時、巻末には「あとがき」を付けることが義務づけられ、読者に親しみを感じさせるようなメッセージを記すよう課されていたという。「あとがき」で怪談を募集した結果、多くの手紙が寄せられ、読者の体験談をもとにして書かれたのが『鬼談百景』と『残穢(ざんえ)』であるらしい。

『鬼談百景』では何の説明もなくいきなり本文が始まり、99話の短い怪談が語られる。
日本の伝統的な怪談のスタイルとして「百物語」という形式があり、一夜のうちに怪談を100話語り終えると本物の怪異が訪れるとされる。
この伝承にちなみ、最近の怪談本は99話であえて終わる形式が多い。『鬼談百景』もその一つだ。

一方の『残穢』は、作者自身をモデルにしたと思しき小説家の〈私〉が読者と手紙で交流するうちに、あるマンションにまつわる一連の怪談に興味を持ち、その土地の過去の因縁話を調べ解き明かしていくというストーリーだ。

2作は、2016年にそれぞれ映画化された。
『残穢』のミステリー作家を演じたのは女優の竹内結子。そして「こんな手紙が届いた」から始まる『鬼談百景』の各話ナレーションも、同じく竹内が担当した。
ここでも2作がつながっているわけだ。

この記事では『鬼談百景』の原作と映画の違いを比べ、感想を紹介したい。

『鬼談百景』各話あらすじと、映画版の【ネタバレ】感想

1. 追い越し

《原作・あらすじ》Uさんが深夜、車に友人を乗せてドライブしていたときのこと。道の先に白い服を着た女の後ろ姿が見えた。追い越すときに、なぜか、女の姿がスローモーションで見えた。(文庫p119)

《映画版・ネタバレ感想》映画では、女は白い服にベージュのトレンチコート。スローモーションの部分は、外からの引きのカメラで車と並走しているのがおかしくて笑ってしまう。最後に女がドアップになるところが不気味だ。

2. 影男

《原作・あらすじ》Kさんは、小学生と幼稚園生、2人の子どもを近所に住む母親に預けて出かけた。
母親が子ども2人を炬燵(こたつ)で昼寝させていると、黒い影のような男が訪ねてきた。男は母親に襲いかかり、満身の力で壁に押し付けてきた。しかし、それは夢だった。(文庫p269)

《映画版・ネタバレ感想》映画では男が「ガン、ガン」と外から窓を殴りつけているかと思ったら、いつの間にか家の中に入り込んでいたところが原作と異なる。「力任せに窓を破ろうとするような激しい音」は窓ガラスの揺れや金具のガタつきを伴って、ビリビリした凶悪な音として耳に飛び込んでくる。この音や男の獣じみた息遣いは映像ならではの表現で、こわい。

3. 尾けてくる

《原作・あらすじ》高校生のSさんが部活で遅くなった帰り道、公園沿いの道を歩いていると、木立ちの陰からこちらをうかがう作業服姿の不審な男に気がついた。怖かったので通りすがりの男性に頼んで声をかけてもらうと、相手は返事をしなかった。その人は公園の中で首を吊っていたのだ。(文庫p316)

《映画版・ネタバレ感想》原作では夜のシーンが、映画では雨の日のまだ明るい時間帯に置きかわっている。明るい場所でバッチリと男の顔を見てしまうところがこわい。
また映像を戻して見てみると、最初のシーンで男がこちらを振り向く様子が、普通にはありえないような回転する動きになっていて、ぎょっとした。

4. 一緒に見ていた

《原作・あらすじ》高校の空き教室で、事務職員の女性が首を吊っているのが発見されて大さわぎになった。
教師の1人が見張り番を引き受け、教室の前の廊下で待っていると、後ろ側からドアがカララッと開く音がして、誰かが出てきた……。(文庫p17)

《映画版・ネタバレ感想》
この話が最も脚色されている。原作にはなんの因縁も描かれていないのに対し、映画では先生と事務職員の女性の間に恋愛感情のもつれがあったというふうにシナリオが変更されている。監督の個性だろうが、怪談に余計な意味づけをするのは野暮だと感じた。

5. 赤い女

《原作・あらすじ》転校してきたAさんが、クラスメートに前の学校で聞いた怪談を話して聞かせた。放課後の校内を赤い服を着た女が徘徊する話だ。その話をしている最中、友だちは背後から近づいてくる靴音と女の声を聞いた。
この怪談はおもしろがって話すと、女が怒って追いかけてくるいういわくつきの話であった。(文庫p178)

《映画版・ネタバレ感想》これも少し脚色がある。映画では「女はこの話を聞いた人のもとに現れ、話した人からは離れていく」設定になっており、みんなが互いに押しつけ合って町中に怪談が広まったというオチである。
「カツン、カツン」というヒール音と女の怒鳴り声、全身薄汚れてボサボサの髪を振り乱したビジュアル、急に飛びかかってくる動きがショッキングでこわい。

6. 空きチャンネル

《原作・あらすじ》高校生のY君がある夜、ラジオの教育放送を聞こうとすると、放送の入っていない空きチャンネルで突如知らない女の声が聞こえた。女は自分の身の上について、ブツブツと不満を垂れ流していた。Y君は女のプライバシーをのぞき見するような感覚に夢中になり取り憑かれたようになって、遺書も残さずに突然死んでしまう。(文庫p309)

《映画版・ネタバレ感想》Y君が女の声に取り憑かれている様子が、ビジュアルで表現されている。
暗い声で鬱々と不満をぶちまける女の声音がまがまがしくも恐ろしい。

7. どこの子

《原作・あらすじ》夜、中学校の職員室に1人居残っていた体育教師が、校内に小学生の女の子がいるのを見つけた。「こんなところで何してんねん。どこの子や」問いかけると、女の子はニヤッと笑い、逃げていった。教師が後を追うと、女の子は屋上に向かう階段を上がり、鍵の掛かった鉄格子の向こう側で待ち構えていた。(文庫p62)

《映画版・ネタバレ感想》複数のエピソードを1日に起きた出来事としてくっつけている。そこにCGで作った黒い影に襲われているシーンを追加しているのは作り物じみて、おかしかった。
結末で女の子の顔を崩れさせているのも、原作と比べると演出過剰という感じ。

8. 続きをしよう

《原作・あらすじ》Nさんが小学生の頃、近所の子どもたち数人と墓場で遊んでいた。しばらくすると、1人、また1人と、転んだり体のどこかに怪我をして、他の子どもたちは帰ってしまった。残りの人数が少なくなり、心細くなっても「じゃあ、続きをしよう」と誰かが言って、遊び続けていた。
最後にNさんは、もう1人の子と2人きりで残されてしまった。(文庫p212)

《映画版・ネタバレ感想》最後に取り残された子がどういう目に遭ったのかわからないところがこわいのに、映画版では最後に血まみれの子どもが現れて「続きをしよう」と誘う姿を見せている。この演出もちょっと余計だった。

9. どろぼう

《原作・あらすじ》Tさんが中学生の頃。近所の奥さんのお腹が大きくなり、その後急に痩せた。その家の子どもが言うには、どろぼうが来て、溝に子どもを落としたらしい。(文庫p81)

《映画版・ネタバレ感想》映画では、子どもはTさんが知らない子で現実には存在しない子、溝に落ちて死んだ子どもかもしれないと匂わせている。うっすらと不条理でこわい。

10. 密閉

《原作・あらすじ》Kさんは、マンションのクローゼットが少しだけ開いてしまう現象に悩まされていた。左右の折り戸をピッタリ閉めていたはずなのに、いつの間にか開いているのだ。取っ手をリボンでくくるとしばらくは閉じていたが、ある晩、リボンの先が扉の中にはさまり、何者かによって中から引っ張られていた。
Kさんは、元彼が拾ってきたスーツケースが元凶であることを知る。(文庫p264)

《映画版・ネタバレ感想》結末が大幅に脚色されている。原作では元凶のスーツケースを元彼に送り返したところ、映画では「元彼が引き取ってくれなかったため、Kさんが自分で捨てた」というナレーションが入る。
しかし、実のところ、元彼はスーツケースの中に引き込まれていたのだ……。
ショッキングでおもしろかった。

映画ならではのおもしろさ

『鬼談百景』のこわさは、怪奇現象がガツーンとくるこわさではない。起きている出来事一つ一つは地味なものが多いが、よく考えると意味がわからなくてこわい。余白のこわさ、あとからくる余韻のこわさだ。

その点、映画になった作品を見ると、怪奇現象をクローズアップして音や映像で怖がらせるように作られている。

『一緒に見ていた』では自殺者が起き上がって歩いているところを映像で見せてしまっているし、『続きをしよう』も同様に、原作にはないバケモノじみた子どもの姿を実像として見せている。こういうところは、原作ファンとしてはちょっと惜しい。
一方『赤い女』の演出は、よかった。元々原作に登場する赤い女のビジュアルを不気味なものとして見せ、すばやい動きで視聴者にショックを与える。これは1人で見てしまうと、かなりこわい話だ。
『空きチャンネル』の女優の演技もこわかった。ほとんど声の出演のみで、憎々しげな話し方には怨念がこもっていそうでこわい。
最後の2話『どろぼう』と『密閉』は原作にないシナリオを付け加えたために、ちょっとひねったおもしろさが追加されていた。
全体的に大幅な変更は少なく、原作の再現度は高いと言える。

初めて観たときは『赤い女』が一番こわいと感じたが、今回2回目を観て、竹内結子のナレーションに寒いものを感じた。ひと昔前には連ドラのヒロインを演じ、人なつこい笑顔と活発なイメージのある女優だ。その彼女が一切の感情を排し、こんなにも冷ややかな声が出せるものか。
『鬼談百景』では全体を通じ、冷え冷えとした竹内のナレーションで怪談話が展開される。
ぜひ映画『残穢(ざんえ)』と合わせて楽しみたい、優れた怪談作品である。

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黒いジョヴァンナ
黒いジョヴァンナ
生来のホラーマニアで、学生時代には『新耳袋』『怖い本』『東京伝説』などを集め読破した。漫画好き、映画好きでもある。