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映画『透明人間』は、エリザベス・モスの二面性が楽しめるSFスリラー

映画『透明人間』感想・考察

待ちに待った『透明人間』が上映開始した。

緊急事態宣言で都内の映画館は休業、新作映画の公開は延期され、随分やきもきしたがやっと観られた。
主演は『アス』での短い出演が印象的だったエリザベス・モス。今回もいい演技だった。

この記事ではネタバレありで、ストーリーを解説・考察する。

ストーリー

セシリアは横暴な恋人エイドリアンの豪邸から逃げ出し、妹の友人宅に隠れた。彼女は元恋人が追ってくるかもしれない恐怖にひどく怯えていた。

2週間後。エイドリアンの訃報が届き、莫大な遺産の一部が彼女に残されたことを知る。セシリアは世話になった友人ジェームズに対し、娘の大学進学の費用を援助することを申し出、恩に報いようとした。

ある日、セシリアはジェームズの家の中で侵入者の気配を感じた。
彼女はエイドリアンが生きていて、目には見えないが家の中に入り込んでいるのではないかと疑い始める……。

《透明人間》はセシリアの前でだけ存在を誇示した。
就職面接に持っていくはずだった作品集は紛失し、妹に絶交を告げるメールがセシリアのアドレスから送られた。ジェームズの娘シンディはセシリアの目の前で見えない《誰か》に頬を張られた。

セシリアは皆から精神を病んでいると思われ、味方を失った。

ネタバレ結末

エイドリアンの家に行くと、セキュリティシステムが通っていて中に入ることができ、飼い犬が元気に駆け寄ってきた。やはりエイドリアンは生きているではないか?
セシリアは証拠となりそうな《特殊スーツ》を見つけ、クローゼットの中に隠して逃げ出した。

妹に電話してレストランに呼び出し助けを求めようとすると、空中にナイフが現れ、妹の喉を切り裂いて次の瞬間セシリアの手の中に収まっていた。

セシリアは逮捕され、精神病院に収容される。
そこで彼女は妊娠していることを知る。ずっと避妊していたはずなのに、なんらかの方法でエイドリアンが彼女を妊娠させたのだ。

セシリアが隠し持っていたボールペンで手首を裂こうとすると、《透明人間》が現れ、彼女は反撃に転じた。駆けつけた看護師は倒され、ガードマンは《透明人間》に銃を奪われた。
セシリアは車で《透明人間》を追った。
エイドリアンは彼女を孤立させ、自分のもとに帰ってくるよう仕向けたいのだ。そのために彼女の愛する者を殺すと告げた。ジェームズの娘、シンディが狙われていた。

眠っていたシンディは不審な気配に気づき、逃げ出した。ジェームズ、セシリアと乱闘の末に《透明人間》は射殺される。スーツを剥ぎ取ると下の顔は、エイドリアンの兄だった。

エイドリアンは「兄に捕まり、自宅の地下に監禁されていた」と主張した。全ての罪を兄に負わせて免れるつもりなのだ。

セシリアはエイドリアンに電話して「戻る」と言った。そしてジェームズに会話を盗聴させ、「エイドリアンに罪を認めさせる」と説得して近くで待機させた。

監視カメラが見つめる中、喜ぶエイドリアンとセシリアが食卓を囲む。エイドリアンは罪を認めようとはしなかった。セシリアが涙を流し、席を外すと、しばらくしてエイドリアンの手の中にナイフが現れ、彼の喉を切り裂いた。

セシリアが化粧室から戻った。彼女は慌てふためき救急に通報したが、監視カメラの死角に入ると、エイドリアンを見つめ微笑むのだった。

「まさか、彼が自殺するなんて……」
駆けつけたジェームズに、セシリアは言う。
彼女のバッグには《特殊スーツ》が入っていた。ジェームズはそれを見咎めたが、セシリアの言葉から、言外のものを感じ取り「そうだ、あれは自殺だった」と同意した。

解説・考察

ジャンルは、心理サスペンス

化粧気もなくやつれたヒロインが、見えない元恋人の気配にやられっぱなしで怯えつづけるのが前半の恐怖劇。そこから一転、妹を殺されたのをキッカケに覚醒し、怯えたフリして反撃する復讐劇が後半の見どころだ。

エイドリアン邸に招かれて現れる最後のシーンでは、黒の肩出しドレスをまとい、真っ赤な口紅で微笑むエリザベス・モスの堂々とした姿が見られる。クローゼットに隠しておいた特殊スーツを着てエイドリアンを殺し、また化粧室でスーツを脱いで、知らん顔して現れる演技が良い。

警官のジェームズは善良な人で、セシリアの犯行に気づくとぎょっとした顔を見せるが、録音中の音源に彼女に不利な証拠が入らぬようにすぐに調子を合わせて「あれは自殺だった」と同意する。一連の演技もまた見事だった。

買収された兄

遺産相続の手続きのシーンで登場したエイドリアンの兄が、重要な役割を果たしている。彼は金で釣られ、また精神的にもエイドリアンから支配されて計画に加担し、エイドリアンが死んだかのように見せかけていた。

《透明人間》のスーツを着てジェームズ宅に入り込み、セシリアの寝室に侵入して寝姿を撮影したのも、おそらく彼のしわざだろう。警官の家に侵入して、最悪捕まるようなリスクを狡猾なエイドリアンがおかすとは考えられない。セシリアが見つけたスマホに写真が残っていたことからして、おそらく、兄が撮影してエイドリアンに向け画像を送っていたのだろう。

特殊スーツ

透明人間を実現した技術は、《百目》のように全身を小型のカメラで覆った《特殊スーツ》だ。周りの景色を内部のカメラで映しとり、それを表面上に映しだすことによって景色を反射して透明に見せているのだろう。

これは原作のウエルズのアイデアだろうか。なるほど、と思わせた。

銃で撃たれることにより、内部の機構の一部が壊れて、時々黒い姿がホログラフィックに現れるところがおもしろかった。

恐怖の演出

久しぶりのTCXの大画面、周りの座席はガラガラで人気がない中で映画が始まり、夜の海が映し出され、真っ暗な岸壁に黒い波が高く迫り打ち寄せる。ただそれだけのシーンが滅法怖かった。大きな波にこちらが飲み込まれそうで、根元的な恐怖を混じた。

夜の海から崖に立つエイドリアン邸にカメラが切り替わり、ガラス張りの邸宅の内部の様子へと移り変わる。オーシャンビューの部屋がガラス張りなのは当然として、寝室までガラスで区切られ、廊下から内部が丸見えであることにドキッとする。
寝室が丸見えなんて、いかにも悪趣味だ。エイドリアンの異常性を感じさせ、「透明」「盗み見」というキー要素を住宅の中にも忍ばせている。

音響効果は、ホラー映画によくある主人公の心音のような、また海鳴りのようなドーン、ドーンという音が印象的で、演出なのか、それとも劇場の不具合なのか。とにかく音が二重にダブって聞こえるシーンが多々あった。
それが不協和音のようで不穏な空気を増幅させる。

前半の《透明人間》が存在感をあらわすシーンでは、たとえばシーツの上の窪んだ足跡であったり、廊下が軋む音やドアが開く音、吐く息の白さなど……。
視覚的、聴覚的に「見えないけど、そこにいる」気配を感じさせる工夫が恐ろしかった。

低予算ながら、隅々まで工夫されており楽しめるホラー・スリラー映画だ。

終わりに

エリザベス・モスは『アス』で主役を務めたルピタ・ニョンゴの演技に大いに触発されたという。今後もホラー作品に出演する方針だろうか、楽しみだ。

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脚本は『ソウ』シリーズ『インシディアス』シリーズを手掛けたリー・ワネル。

製作はブラムハウスのジェイソン・ブラム。
最近のブラムハウス作品で言えば、日本で劇場公開されずDVDが発売された『マー -サイコパスの狂気の地下室-』とDVD発売予定の『ドント・レット・ゴー -過去からの叫び-』辺りが気になるところだ。

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黒いジョヴァンナ
黒いジョヴァンナ
生来のホラーマニアで、学生時代には『新耳袋』『怖い本』『東京伝説』などを集め読破した。漫画好き、映画好きでもある。