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映画

イザベル・ユペール主演『グレタ』の怪演を見よ!

数年前、なにげなく観たフランス映画『エル』には驚かされた。

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「エル」の意味はフランス語で「彼女」。
イザベル・ユペール演じる会社経営者が、覆面の男によって自宅に侵入されレイプされたことから始まる怪事件を描いたサスペンスだ。

フランス映画らしいウィットと「ほのめかし」に富んだわけのわからん映画ではあったが、イザベルはやられっぱなしではなく、自分を侵害しようとする男たちに反撃しこっぴどく復讐する。演技に圧倒された。

そのイザベルが今度はストーカーに扮し、クロエ・グレース・モリッツにつきまとう。怯えるクロエと不敵に笑うイザベル。

あらすじを聞いただけで、ワクワクしてしまう。期待にたがわぬ名作だった。

あらすじ

ウェイトレスとして働くフランシスは、ある日、地下鉄に置き忘れられたハンドバッグを見つける。親切心から持ち主の自宅まで届けると、相手の女性はグレタと名乗り、室内に招き入れてお茶をふるまった。

グレタにはフランシスと同年代の娘がいるが、留学中で不在だという。
母を亡くして間もないフランシスはグレタに心を許し、以後、母子のように仲良くなる。
フランシスのルームメイト・エリカからは「あまり近づきすぎないように」と忠告されたが、気にも留めなかった。

グレタの家に夕食に招かれたフランシスは、戸棚の中に同じ形のハンドバッグがいくつもしまわれているのを見てしまう。バッグには1つずつメモが貼られ、知らない人の名前と自分の名前が書かれていた。
これは一体……?

この先、後半のストーリーと考察・解説ではネタバレ全開となる。
ネタバレを知りたくない人は、観賞後に読むことをおすすめする。

ネタバレ

グレタの娘はグレタの過干渉に心を病み、数年前に自殺していたことがわかる。
フランシスが危険性を悟り、さりげなく遠ざけようとした時にはすでに遅く、グレタのつきまといが始まっていた。
たまりかねて警察を呼ぶと、グレタはエリカにもつきまとうようになり、二人を脅かす。フランシスは突き放そうとするが……

「ガムみたいに離れない(=スティッキー、粘着質)んでしょう?」
グレタは不敵に笑い、噛んでいたガムをフランシスの髪にくっ付けた。

エリカの作戦で、フランシスはグレタに素直に謝り「しばらく旅行に出かける」と告げて身を隠そうとする。
しかし、グレタはフランシスの嘘を見破り、彼女を拉致して自宅に監禁した。

フランシスの父が警察に相談し、警察官がグレタの家を訪ねるが、背後から注射器を刺され、やられてしまう。

次なるターゲットを求め、グレタが地下鉄にハンドバッグを置くと、まんまと引っかかり家まで届けに来た若い女性がいた。
言葉には田舎の訛り、そして派手なカツラで変装した女性は……
エリカだった。

エリカはグレタを撃退しトランクの中に閉じ込め、フランシスを救出して警察に通報した。

感想・考察

イットフォローズ 』『ヴィランズ』で主役を演じたマイカ・モンローがエリカ役を好演している。
親からアパートを与えられお気楽に暮らす、軽薄なお嬢さまかと思いきや、後半では果敢に行動し、体を張ってフランシスを助け出す。いいやつじゃないか……!と好印象に変わった。

むしろ知らない人の家にのこのこ訪ねて行ってストーカーされ、エリカ所有のアパートまでも危険にさらすフランシスの方が愚かで危うい。
成人してもなお、少女の面影を残したクロエ・グレース・モリッツの怯える演技は役にはまっていて可憐だ。

しかし、なんといっても一番の見どころは、グレタ役のイザベル・ユペール!!
見た目は小柄なフランス女。(ちなみに、劇中の設定はポーランド出身で警察に追われるサイコキラーだ。)
内面には支配的で残忍な性格を隠し、死んだ娘の代わりの獲物を求めて目がギラギラしている。

くるくるとバレリーナのように回転しながら警察官に近づき、華麗に注射器で刺す演技には思わず拍手が出た。

シナリオは単純だが、演出が優れている。
フランシスが初めてグレタの家を訪ねたとき、隣室の壁越しに「なにか」がドンドンとぶつかる音が響いた。グレタは「隣人がリフォームをしているみたいで、うるさいの」と澄まして紅茶を飲んでいた。

後半、フランシスが捕らえられ、グレタの家を警察官が訪ねると、フランシスが隠し部屋で暴れ、壁にぶつかって音が響くシーンが再現される。
グレタは同じセリフを繰り返す。「隣人がリフォームをしているみたいで、うるさいの」
同じ場面を繰り返すことによって、フランシスの前に何人も殺していることを暗示する怖いシーンだ。

壁からの振動を受けて、突如、メトロノームがカチカチと動き出す。
外から見たところ、隣室は空き部屋だったはず……と警察官が不審に思う。

この瞬間の緊迫感も良かった。

イザベル演じるグレタは、若い女性を支配してペットのように思い通りにしようとする《毒母》の性質を持っている。
男女間のようにセクシャルな欲求が関わらず、純粋な支配欲のみに突き動かされているところが怖い。

女性が自分より弱い者に向ける支配欲はえげつなく、恐ろしいものだ。
ここ1年に観たサスペンス映画の中で最も優れた作品の一つである。

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ABOUT ME
黒いジョヴァンナ
生来のホラーマニアで、学生時代には『新耳袋』『怖い本』『東京伝説』などを集め読破した。漫画好き、映画好きでもある。